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「な、ナハトさん、なんでここに……?!」 「……なんでって、なに。俺が居たら何か不都合でもあるわけ?」  一瞬まだ自分が夢見ているのだと思って頬を抓ってみるが、痛い。  それにこのチクチクした物言い、夢ではない。本物のナハトだ。  酷く久し振りにナハトと会えたことに喜んだとき、ナハト不在時のあれこれが走馬灯のように一気に頭の中を駆け巡っていく。 「……っ、……な、ナハトさん……あ、あの……なんで俺、抱きかかえられてるんですか……?」 「連れて帰るから」 「帰るって……」 「おいナハト! テメェ勝手に人の部屋入ってんじゃねえよ!」  どこへ、と続けるよりも先に、寝室の扉が自動で開く。そしてドカドカと踏み込んできたノクシャスと――その背後にはモルグもいるようだ。  ナハトに抱きかかえられてる俺を見付け、「やほー、善家君」と手をひらひらと振ってくるモルグに慌てて俺は振り返す。 「……勝手にもなにも、別にもう話は決まっただろ。こいつは俺が見るって」 「決まってねえ、テメェが勝手に言ってるだけだ」 「あ、あの……これは一体……」  なにやら一触即発なナハトとノクシャスに挟まれたまま、俺はどうしたらいいのか分からずモルグに助けを求める。  すると、俺のSOSに気付いたようだ。モルグはごほん、とわざとらしく大きな咳払いをした。 「取り敢えずさぁ〜、善家君も起きたんだしもう一度話し合わない?」 「ナハトも、そんなに善家君抱っこしてたいんだったらそのままでいいけど」そう、モルグに宥められたナハトは舌打ちをする。そしていきなり人の身体を床に置くのだ。  一応放り投げだされることはなかっただけナハトなりの優しさなのだろう。……そう思うことにしておこう。  ――というわけで、わけも分からないまま俺は三人とともにノクシャスの部屋のリビングルームへと移動することになったのだが……。  向かい合うソファー、俺の隣にはナハト。そして向かい側にはモルグとノクシャスが腰を下ろしていた。  よく考えなくてもこのメンツ、結構嫌な予感しかしないのだけれども。  自分に後ろめたいことがあるからそう感じるだけかもしれないが、寝ぼけていた頭も段々覚醒してきた俺はことの重大さに気付いた。 「……それで、その……これはどういう集まりで……」 「それは見たら分かるでしょ〜。皆善家君が好きだから集まってるんだよぉ」 「「違う!(ちげえよ!)」」 「……」  モルグの軽口に対してこの即答である。しかもハモってるし……。 「……俺は別に、用事も終わったから良平を回収しに来てやったんだよ。それなのに、そこの筋肉馬鹿が」 「誰が筋肉馬鹿だ! そもそも、お前用事が済んだっつったって暇じゃねえだろ。だからまだ置いといても構わねえって人が気を利かせてやったってのによ」 「気? お前が? キモ、なに? 良平のこと気に入ってんの?」 「……ッ、はぁ?!」 「ノクシャス声でか〜」と耳を塞ぐモルグを無視して、思わず立ち上がるノクシャスにナハトは冷ややかに笑った。 「……は? なに、もしかして図星?」 「ちげえよ、ちげえ。つうかお前だって人のこと言えんのかよ、良平良平良平良平って、普段ずっと一緒にいたんだから少しくらい我慢しろ!」 「……っ、なにそれ、俺そこまで言ってないし。言いがかりやめろよ」 「ああ?! やんのか?!」 「……上等だよ、表出ろよ」 「ちょ、ちょっと……あの、お二人とも……」  なんでそんなに俺のことで喧嘩になるのか分からないが、恐らく元々険悪だった二人の積もり積もったあらゆるものが今ここにきて暴発してるのだろう。  しかし二人を止める術など俺にはない、「モルグさん」と向かい側のモルグに縋ろうとしたとき。 「二人とも〜、治療は僕が診てあげるから頑張れ〜!」 「も、モルグさん……?! と、止めてください……!」 「え〜、でも面白そうじゃない? 善家君はどっち応援するの〜?」 「そ、そんなこと言ってる場合では……」  駄目だ、モルグは宛にならない。  ええと半ばヤケクソに俺は今にも掴み合いになりそうになる二人の間に飛び込んだ。 「お、落ち着いてください、その……仲良く……!」 「おい、邪魔だ良平。前から気に食わなかったんだよ、テメェのそのスカした態度がよぉ!」 「ああそう、俺はアンタと初めて会ったときから気に食わなかったけど?」 「この野郎……ッ!」  だ、駄目だ……俺にはどうしようもできない。  どうしようどうしよう、と右往左往していたときだった。ノクシャスの部屋に、来客を告げるブザー音が響く。二人はそれどころではないようだが、俺は逃げるようにその玄関口へと向かい、扉を開いたとき。  ふわり、と懐かしい香りがした。  そして、ぼふりと目の前の人に飛び込んでしまう。 「おおっと……ああ、やっぱりここにいたか」 「良平」と優しく受け止められ、顔を上げればそこには微笑む兄の姿があった。 「に、兄さん……!」  そう声を上げたときだった、後方、リビングルームの方から聞こえていた罵声が止む。  そして、予期せぬ兄――自分たちの頭領の登場にナハトとノクシャスは凍り付いていた。

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