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 ――社員寮・自室。  部屋へと戻ってきたときには警報は解錠されていたが、念の為ということもあって今晩は俺の部屋で二人(というか主にナハト)が警護についてくれるようだ。  取り敢えず着替えて風呂に入ったり、途中乱入してきたモルグをナハトが手刀で気絶させて回収したりと色々してるうちにあっという間に夜は更けていく。  寝間着に着替えた俺と、相変わらず気絶したまま床に転がされてるモルグ。ナハトにもシャワーを勧めたのだが、「今はやめておく」とナハトは断った。自分がいなくなったら俺が一人になることを心配してくれたのかもしれない、うち一人はナハト本人が気絶させたのだが。 「ナハトさん、今日はありがとうございました」 「……別に。アンタは明日も働くの?」 「はい、……あっ! そうだ、返信確認しないと……!」 「返信?」 「は、はい……さっきちらっとタブレット見たとき確か担当の方から連絡がきてて……」  言いながら、仕事用の鞄からタブレットをもたもたと取り出す。そして案の定サディークから連絡が入っていた。  その内容は、明日の昼にまた食事にでもどうかというような内容だ。 「えと、『分かりました』……っと……」 「良平、お前入力してる文字口で出すの?」 「あ……すみません、つい……」 「別にいいけど、パスワードまで読み上げそうだな」 「そ、そこまでじゃないです……っ!」  ……多分。  なんてやり取りしつつ完成したメッセージを送れば、すぐにサディークからの返信が返ってきた。 『今何してる?』という内容だ。それを俺の背後から覗き込んで見ていたナハトは「お前に関係ないだろ」と吐き捨てる。 「……って、な、なに見てるんですか……!」 「なんで隠すの?」 「だ、駄目ですよっ! 業務内容なので……!」 「……ふーん、あっそ」  そう慌ててタブレットを隠したのが癪に障ったようだ、ナハトはムスッとしたまま向かい側のソファーへと戻った。  言い過ぎただろうか。つんとそっぽ向くナハトに少し反省したが、仕事は仕事だ。公私混同はよくないと望眼にも言われたし……と自分に言い聞かせつつ『お風呂に入って、部屋でゆっくりしてました』とサディークに送る。 「風呂入ったことをいちいち報告する必要なくない?」 「な、ナハトさん見ないでくださいって……!」 「見てない。俺のペットが勝手に情報教えてくれただけ」 「俺は悪くないし」と再びソファーに不貞寝するナハト。先程まで少し仕事モードでかっこいいと思っていたが、すっかりいつものナハトになっている。  けど、ここ最近バタバタしていたのでこういうやり取りもなんだか嬉しく思えてしまうのは俺がおかしいのか。  なんて浸っている間にまた返信が届いた。 『俺もコーヒー飲んでた』 「どうでもいい、無視しろ」 「な、ナハトさん……っ!」 「てか、仕事のやり取り部屋でまでしなくていいでしょ。……さっきからずっとタブレットばっか弄ってるし」  言いながらむくりと起き上がったナハトはこちらを向く。ずっとと言ったって、多分三十分も経っていないはずだが……。そう思って、はっとした。  ……もしかしてナハトさん、寂しがっているのか? 「……わ、分かりました、もう今夜はタブレット見ません。……へへ」 「なにその笑い方、キモ」 「き……ッ」 「仕事終わったんだったらさっさと寝なよ」  あれ、一緒にゲームしたいとかそういうのじゃないのか……?  思いの外冷たいナハトに戸惑いつつ、これ以上取り付く島もない俺はナハトに言われるまますごすごと寝室へと向かう。  別に進展したいとか、この間のあれやそれとかを気にしてほしいわけではないが、ないけども。  あまりにも素っ気ないというかいつもと変わらないナハトを前に、そこで俺は自分自身がナハトに対して無意識に期待してしまっていたということに気付かされる。  とはいえど、ナハトもナハトなりに社会人になった俺を気遣ってくれているのかもしれない。気絶させられたままのモルグのことはナハトに任せておけば大丈夫だろう。  俺は悶々とした気持ちのまま一人冷たいベッドに潜り込んだ。

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