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 一人布団に潜ってるとあっという間に眠りに落ちていた。そして、どれくらい経った頃だろうか。遠くからなにやら声が聞こえて目を覚ます。  ナハトとモルグだろう。もぞりとベッドを降り、寝室の扉を開けてリビングルームを覗こうとしたときだった。  俺が扉を開く音に気付いたようだ、ぴたりと声が止んだ。そして顔を出せば、そこには向かい合うようにソファーに腰を下ろすナハトとモルグがいた。二人ともこちらを見てる。 「あ、善家君ようやく起きたんだねえ。おはよ〜」 「おはようございます……その、すみません……もしかして大事なお話の最中とかでしたか?」 「いや、全然。ただの世間話中だよ」 「善家君もこっちにおいでよ」と手招きしてくるモルグに狼狽えてると、ナハトが「あんたはこっち」と自分の隣を叩くのだ。  そんなナハトを見てモルグは笑う。 「お、ナハトが牽制してる」 「……またぶり返すつもり? 別に、なんでもないって言ってるでしょ」 「あ、あの……」 「いいからあんたはこっちだって」  ……なにか、ナハトの機嫌が悪い気がする。  対するモルグは楽しそうだ。「ナハトの隣に行ってあげなよ」というモルグに甘え、俺はナハトの隣にお邪魔することにした。 「君が眠ってる間、君の話してたんだよ良平君」 「え、俺の……?」 「俺はしてない。……あんたが勝手に言い出しただけだろ」 「とか言って、僕が良平君の名前を呼ぶ度にイライラするんだもん。さっさと言えばいいのにさぁ」 「うるさい、口を縫われたいの?」 「あ、あの……」  喧嘩してるというよりも、モルグが一方的にナハトに絡んでいるようにも見える。  というか、話の内容からしてもしかしてあの事についてか。  はっとし、咄嗟にモルグを見る。 『まさか言ったんですか……?!』と視線で訴えかければ、俺のアイコンタクトに気付いたらしいモルグはぐっと親指を立てた。なにがぐ!なのかはわからない。  けれど、と隣に座るちらりとナハトを盗み見る。機嫌は悪そうだが、めちゃくちゃ悪いというわけでもなさそうだ。  そしてそんな俺の視線に気付いたようだ、「なに?」とナハトは睨んでくる。 「あ、いえ……その、俺の話っていうのは……」 「酒抜けてない酔っぱらいの盲言。……気にしなくていいから」 「は、はい」  これは深く聞かない方が良さそうだ。  俺は大人しく膝を抱き、咄嗟にこの空気をなんとかしようと話題を探した。 「そ、そういえば……外、大丈夫なんですか?」 「呼び出しがきてないから大丈夫」 「なら良かったです」 「ちょーっと本社の外壁が崩れたくらいだってねえ、ま、すぐ修理されたみたいだし被害もそんくらいかな?」 「……」  それは大丈夫の範疇に入るのか。  結構な戦闘があったのではないかと少し怖くなったが、「まあ壊したのノクシャスだけど」というモルグの言葉を聞いて安心した。いや安心しちゃだめだ。 「それより、目覚めちゃったんだねえ善家君。まだ出社時間には早いよ、もう一眠りしなくて大丈夫?」 「は、はい……安心したらまた眠くなってきたので、少し飲み物だけ飲んでもう一度休もうとします」 「あははっ、赤ちゃんみたいで可愛いねえ〜たんとお飲み〜? あ、お酒も用意したよ」 「い、いえ……お酒はやめときます」 「そっかあ、残念。じゃ、ナハトに呑ませようかな〜」 「いらない。仕事中」 「うわ、真面目〜」  少し話してる間にまた空気はよくなったようだ。ほんの少しではあるが、さっきまでのぴりついた空気が和らいだのを見て安心する。  それから俺はホットミルクを取ってきて、少しだけナハトたちと他愛ない話をしてから再び寝室に戻ることにした。  ――そして翌朝、次に目を覚ましたときには居間にモルグの姿はなかった。  リビングルームのソファーにはナハトが座っていた。俺が起きてくると、こちらを振り返ろうともしないままナハトは「遅い」と第一声を口にする。 「あ、すみません……おはようございます、ナハトさん」 「……ん」 「あの、ナハトさんは眠ってないんですか?」 「眠くなかったから」 「え……」 「それより、仕事の準備しなくていいの? 昨日のスーツならクリーニング終わってるみたいだけど」 「あ、す、すぐに準備してきます……っ!」  ナハトの言葉に慌てて俺は身支度を整えることにした。よくよく考えなくてもまだ遅刻しそうな時間でもないし、そもそも規定の時間もなかったが、ナハトに言われると早くしなきゃ!という気持ちになってしまうので不思議だ。  バタバタ準備を済ませ、スーツに着替える。寝癖が少し残ってしまい、必死に直そうとしたが無理だった。諦めて俺はナハトの待つリビングルームへと戻る。ナハトは俺の寝癖を二度見だけして鼻で笑っただけだった。 「それじゃ、行くよ」 「え、ナハトさんもですか?」 「営業部まで、念の為って連絡が来たから。……その後のことは営業部の奴らにパスする」 「いいんですか?」 「いいんですかって、なに」 「いや、その……あんまり人前とかに顔を出すの、ナハトさん好きじゃないのかなって思ったんですけど」 「当たり前」とナハトは即答した。だよな、と思ったとき「でも」と小さくナハトは口を開く。 「アンタが世話になってるらしいから、一応見ときたい。……好奇心」 「な、ナハトさん……」 「なに、その目。文句ある?」 「い、いえ! ナハトさんがそう言うなら俺は全然……っ!」 「……」  ナハト自身は気付いていないのだろうか。今までだったら普通に嫌がって会社の前で俺を放り出しそうなものを、そんな風に俺に興味持ってくれること自体が稀有ということを。安生の言葉を思い出して余計嬉しくなる。  ……この気付きは俺だけのものにしておこう。  そう決心してると、「なにそのだらしない顔」とナハトにそっぽ向かれた。  この対応にも早く慣れなければ。

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