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 やはり、ナハトといると目立つ。  ――社員食堂へと向かう途中の通路。  ノクシャスのように直接挨拶されることはないが、向かい側から来る社員たちは道を避けていくのだ。  ナハト本人が嫌がってるだろうなと思いながらちらりと隣を歩くナハトの横顔を盗み見る。仮面越しでは分からないが、不機嫌オーラが滲んでいた。  これは、早めに食事を済ませた方がよさそうだな。なんて思いながら俺達は社員食堂へと足を踏み入れた。  安生がいるときは一般社員もいる一般スペースで食べていたが、やはりナハトは静かな場所を好むようだ。受付で周りに他の社員がいない、階段を上った先にある個室スペースを借りることになる。  昨日ノクシャスたちと使ったあの部屋だろう。俺は特に気にしなかったのだが、あそこは所謂一般社員は使えないようだ。まさしく孤独を好むナハトにうってつけのスペースだ。  受付のロボについでにメニューを頼んでいたのだが、ナハトはドリンクだけさっさと選んでそんな俺をやや斜め後ろに立って見ているだけだった。 「ナハトさんは食べないんですか?」 「アンタがグースカだらしない顔して寝てる間に済ませた」 「う……そ、そうですか……」 「……それに、どうせアンタがもりもり食べてるの見てるだけでこっちは十分だから」 「う……」  俺が色々頼んだのを見られていたようだ。指摘されて顔が熱くなる。  そして、それから注文を終えた俺達はホール内を歩いて中央階段へと向かおうとしていたときだった。 「昨夜の襲撃、一人取り逃したんだつて?」 「あいつだろ? レッド・イル」 「……」  不意に、テーブル席で集まっていたヴィランたちがそんなことを話しているのが聞こえてくる。その内容、というよりも“レッド・イル”という単語にナハトが反応したように見えた。  ――というか、取り逃がしたって。  そんな話は聞いていなかっただけにひやりと汗が滲んだ。今朝からノクシャスの顔を見てないからこそ余計、この間の怪我して戻ってきたナハトのことを思い浮かべてしまう。 「流石のノクシャスでも逃がすって相当やべーって」 「てか、まだこの辺りにいるってことか?」 「もうダウンタウンでは賞金首掛かってるらしいな、他社の連中も血眼になってるって」  俺達に気付いていないようだ。盛り上がってる席を横目に、俺達はそのまま階段を上がって個室に入った。  そして、 「はあ……ベラベラ喋りすぎ」  うんざりしたように大きな溜息を吐きながら、ナハトは一人用のソファーに腰を下ろした。  俺はナハトとテーブル挟んで向かい側の席に腰を下ろす。  仮面の下を確認せずとも、ナハトの表情はわかった。恐らく、めちゃくちゃイライラしてる。なんなら声から滲んでいる。 「あのナハトさん、レッド・イルのこと知ってたんですか?」 「そりゃあそうでしょ。……けど、時間の問題」「時間の?」 「……レッド・イルは深手を追ってる。そう無茶な抵抗もできないくらいにね」 「ノクシャスのやつが逃したのは笑えるけど」そうナハトが乾いた笑いを漏らした。  それから間もなくして料理を乗せた自走式ワゴンロボが移動してやってきたのでそれを受け取る。  自走式ワゴン型ロボを見送り、きちんと扉を閉めたことを確認した俺は再び席へと戻った。 そして、 「ナハトさんは探さないんですか?」  仮面を外し、ドリンクボトルに刺さったストローを咥えたままナハトがこちらを見た。  さらりと伸びた前髪の下、真っ直ぐにこちらを睨んでくるものだから余計なことを言ってしまっただろうかとひやりとしたが、すぐにナハトは視線を下ろした。 「そりゃ、今すぐ見つけ出してぶっ殺してやりたいけど……俺にも仕事があるからね。それに、そっちは今ノクシャスたちに任せてるから」  レッド・イルに怪我を負わされたときのことを思い出して、少しだけ驚いた。固執してるように見えたけど、わりと割り切ってるようだ。  ナハトの言葉は物騒ではあるが落ち着いている。  そんな風に感心していると、ナハトの視線が再びこちらを向いた。 「なにその顔。……今の、喜ぶところでしょ」 「え、あ、ご、ごめんなさい……っ!」 「はあ……萎えた、これやる」 「あ、ありがとうございます……」  寧ろいいのか?と思いながらも、ナハトは俺の方へとドリンクボトルを寄越してきたのでありがたく頂戴する。  ボトルを手にしてみれば、殆ど減っていないことに気付いた。 「殆ど飲んでなくないですか?」 「だから萎えたんだって」 「これ、この前も飲んでましたよね。ナハトさん好きなんですか?」 「アンタには関係ない」 「そ、そんな……」  そんな話をしながら、俺たちは朝食を終えた。

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