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02
サディークの能力の部分は伏せ、取り敢えず極力オブラートに何重にも包めながらも俺は望眼に説明することになる。
そして、最初は真面目に俺の話を聞いていた望眼の顔は段々妙な顔になっていくのだ。
「……ということがあって、それで、サディークさんから逃げるような形で別れてしまって」
「あーうん、なるほどな……っていうか、お前、いや、まあ色んなやつがいるからな……」
何か言いたげにしては口籠り、一人言葉を探る望眼。もしかしてなにかまずかったのか、いや大体全部流れからしてまずかったことには違いないのだが段々不安になってきた。
そして、ようやく意を決したように望眼は小さく咳払いをして「なあ、良平」と更に声のトーンを落とす。
「は、はい」
「お前……男好きなのか?」
「えっ?」
やけに神妙な顔をして尋ねられるものだから、思わず変な声が出てしまう。
「い、いや、俺はそういうわけでは……」
「確かにまあそのだな、相手と親密になるために寝るってのも手段ではあるけど……」
「あるんですか?!」
思わず声が裏返ってしまう。
望眼は一瞬「やべ」って顔をしてたが、「貴陸さんに言うなよ」と釘を刺した。
「ってことは望眼さんもその……」
「昔な?! 昔ちょこっとだけだし、それにそれは後々面倒なことになるからやめとけってすこぶる怒られる」
「は、はあ……確かに」
「確かにってお前な……けど、流石に俺も男相手にそうはなんねえって。良平、お前はそっちの経験はないんだろ?」
言葉をぼやかしすぎて最早ワードパズルのようになってきたが、望眼の言わんとしていることはわかった。
そして尋ねられ、言葉に詰まる。そのまま顔が熱くなる俺を見て、望眼は「え」と目を丸くした。
「お、お前……」
「いや、その、待ってください……っ!」
「待ってる、待ってるから落ち着け……! 俺はその、良平が無理してんだったりサディークのやつに無理矢理ってなら勿論止めるし担当も代えさせるつもりだったけど……」
「えーと、その……」
「なんでそこで言葉に詰まるんだよ……っ!」
へへ、と笑うしかない。もう笑って誤魔化す他なかった。
「望眼さん、俺やっぱり怒られますかね……」
「まあ、大丈夫なんじゃないか? 死者や怪我人出てないだけマシだろ」
流石ヴィラン、寛容すぎるところはありがたいがこれでいいのだろうかという気持ちと助かったという気持ちがせめぎ合う。
「……けど、はぁ~まじか。人は見かけによらねえっていうけど、お前がなあ……」
「……?」
「なんできょとんとしてるんだよ。……一応先輩として言っといてやるけど、色恋営業は自分の首締めるから辞めておけ」
流石先輩だ、妙な説得力がある。
「はい、分かりました」と頷けば、「よし」と望眼は頷く。
「取り敢えず、サディークの方は俺が引き継いでおく。今日は……そうだな、ちょっと俺の仕事手伝って貰うかな」
「分かりました……っ! ありがとうございます、望眼さん」
「…………おー」
なんか妙な間があったのが気になるが、一まずはサディークのことは先輩の望眼に任せておくこととなった。
丸投げするみたいで申し訳ない反面、ホッとする。
けど、一応サディークにも改めて謝罪くらいはしないといけないな。そんなことを考えながら、今日も一日は始まるのだった。
◆ ◆ ◆
午前中、主に望眼の手伝いだったり営業してる望眼を眺めたりしてる間にあっという間に昼になる。
丁度望眼の担当ヴィランとの打ち合わせを終えた俺達は本社のエントランスホールまでやってきていた。
相変わらず人通りは多いが、いつもとはどこか違う賑わいだ。
いや、賑やかというよりもこれは……。
「なんか騒々しいな」
「……ですね。なにかあったんでしょうか?」
「さあな。ま、面倒ごとには首を突っ込まない方が吉ってな。ほら、飯食いに行こうぜ」
「は、はい……っ!」
なんて言いながら望眼と社員食堂へと向かおうとしたときだった。正面玄関のドアが開き、数人の社員が帰ってきたようだ。
エントランスホールは基本多くの任務へと向かう社員が使う通路がある。別にそれだけならばなんらおかしいことはないのだが、なんだか戻ってきた社員たちがピリピリしているようだ。
そのまま受付カウンターまで行き、なにやら揉めている社員を見て「おお……」と思わず口にしてしまう。
「こら、見んな見んな。絡まれんぞ」
「あ、す、すみません……つい」
そんな会話を交えつつ、何事かと警備員まで集まってくるのを尻目に俺達はそのまま食堂へと向かった。
――食堂へと繋がる通路。
「にしても荒れてんなあ」
「そういえば、今朝食堂でスパイがどうたらって話してるのを聞いたんですけど……それと関係あるんですかね?」
「スパイ? あー……もしかしてあれか? 同業者に仕事取られてるってやつ」
「え、」
並んで歩いていると、さらりとそんなことを言い出す望眼に素直に驚いた。なんだそれ、初耳だ。
「つっても、俺も又聞きなんだけど」
「同業者って、ここみたいな会社があるんですか?」
「はは、そんなご立派じゃねーだろ。うちの会社よりも粗末なもんだよ。組織って言うほどの大人数でもないってのは聞いたけど」
「依頼先に向かったら既に赤の他人にターゲットを消され、仕事も報酬も横取りされんだって。俺の担当も愚痴ってたな」なんて望眼は他人事のように口にする。
それってなかなかとんでもない話ではないのか。
「……内通者がいるってことですか?」
「ああ、だからスパイだって。前からちょこちょこあったらしいが、最近はその被害も多くなって皆苛ついてんだろうよ」
「なんか、怖いですね」
「はは、そうだな。……俺達にも関係ない話じゃねえし。貴陸さんもそれで最近忙しそうだしな」
そうか、そんな被害受けた人たちの相談を受けるのが俺達でもあるのだ。他人事ではない。
気を引き締めなければ、と改めて口の中で呟く。
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