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05※

「良平、おい良平」 「んう……」 「寝るなら布団で寝ろ。ほら……って、お前の部屋どこだよ。鍵あるか?」  ここは店の外だろうか。いつ店を出たのか記憶が定かではない。  ふらつく足元、望眼に支えられながらではないとまともに進むこともできなかった。  それでも悪い気持ちではない、寧ろふわふわとした心地よさに意識は微睡む。 瞬間、 「良平」  耳元で名前を呼ばれ、驚いて「はいっ!」と慌てて声を上げればすぐ眼の前には望眼の顔があった。  街頭で照らされた路地、表通りの喧騒は遠く響く。 「良平、鍵だよ。鍵」  お前本当に大丈夫か?という顔をする望眼に「はい、らいじょうぶれふ」と返しながら俺はスーツのポケットを漁る。  鍵、鍵……。確かここに……と、指先を動かすがそれらしき感触はない。あれ、どこにやったっけ。 「……う、……あえ」 「あーもう、わかったわかった。……ったく」  そう言って腕を掴まれ、望眼の肩へと回される。そのまま先程よりもしっかりと抱き抱えた。  それが俺の覚えている断片的な記憶の一つだった。  ◆ ◆ ◆ 「……ん、う……」  はっとしたとき、眼の前には見慣れない天井があった。  ――あれ、ここどこだ?  まだ微睡んだ頭の中、眼球を動かして辺りを探った。そのとき、視界の隅でなにかが動く。 「……良平、気がついたか?」  伸びてきた手に頬を撫でられる。目元に掛かる前髪を避けるように触れられ、そして薄暗い部屋の中、ぼんやりとこちらを見下ろす人の影が浮かんできた。  ――望眼だ。  スーツから私服に着替えてるようだ。一瞬誰か分からなかったが、一先ず望眼がいるということに安心した。 「もちめさん……」 「っておい……まだフニャフニャしてんな」 「ここ、は……」 「あー……ここは俺の部屋。お前の部屋まで送りたかったけどお前、途中で爆睡するし部屋の場所も鍵も分かんなかったから取り敢えず連れてきたんだけど……」  まだ頭が働いていないようだ。頭上から落ちてくる単語だけを拾い、取り敢えずここが望眼の部屋ということだけはわかった。言われてみれば、望眼の匂いがする。そう、そばにあったクッションを手繰り寄せて抱き締める。そのまま顔を埋めれば、その甘い匂いは強くなった――気がした。 「おい、良平……」 「ん、……」 「お前、ここで寝るつもりかよ。俺の寝る場所ねえって」  そうか、あまりにもシーツとクッションのフカフカっぷりに寛いでしまったがここは望眼のベッドなのか。起きないと、思いながら鉛のようにクッションへ重く沈む体を起こそうとしたときだった。ベッドが一人分の体重に沈む。そして、隣に誰かが寝る気配がした。振り返ろうとすれば、思いの外近くにいたその人に少しだけ驚く。 「ぁ……」 「流石に二人は狭えな」 「……そう、れすね」  暗いけど、目を拵えばじんわりとその暗影、輪郭が浮かんでくる。望眼の表情まではわからないが、仮にも先輩であり、部屋の主である望眼の邪魔にはなりたくない。  そうじり、と咄嗟に顔を逸してベッドの端までずれようとしたとき、伸びてきた腕が腰に回る。 「……っ、ン、ぅ……」  寝惚けてるのかと思ったが、そんな秒速で寝落ちて夢の中に行く方がよっぽど珍しい。  どうしたのかとその手にそっと触れたとき、腰に回された手が腹部に触れる。臍からゆっくりと胸元まで撫で上げるように這わされる指先は、そのまま鎖骨から顎の下まで登ってきた。 「も、ちめさん……?」 「……お前、全然嫌がんねえのな」  なにが、とぼんやりとした頭の中、背後の望眼を振り返ろうとしたとき、更に体を抱き寄せられる。背中越しに感じる体温と流れ込んでくる心音が混ざり合い、自分のものなのか望眼のものなのかわからなくなっていた。  なんだ、これは。  顎の下を撫でていた指がそのまま唇に触れ、柔らかく唇を割り開かれる。  なにをされてるんだ、俺は。 「……っ、ん、ぅ……ッ」  にゅる、と口の中に入ってくる骨ばった指に少し驚いた。ぢゅぷ、と唾液で濡れた舌を掴まれ、柔らかく揉まれる。その動作だけでじんわりと咥内の粘膜からは唾液が分泌され、全身の体温が上昇していくのがわかった。 「ん、う……う……」  なんで俺に指をしゃぶらせるんですか、望眼さん。  そう言いたいのに、口の中のそれが邪魔で上手く喋ることもできない。それどころか拒もうとすればするほどしゃぶるような形になってしまい、ちゅぱちゅぱと恥ずかしい音が寝室内に響いてしまうのだ。  項に望眼の息が吹きかかる。捩ろうとした体を更に抱き竦められ、腰の辺りになにかが当たるのを感じた。  これは、もしかして。  いや、そんなはずはない。だってなんで。  段々酔いも冷めていく。これはもしかしてとんでもない状況なのではないかと理解し始めたところで、空いていた望眼の手にネクタイを緩められるのだ。 「……っ、ん、……ま、って……」  待ってください、と続けようとしたとき、そのまま顎を掴まれて唇を塞がれる。  息をするようにキスをされ、俺は結構ショックを覚えた。いやそうだ、だって望眼は優しい先輩で、それで……。  それで……? 「……っ、ん、ふ……ッ、ぅ……ッ」  ガッチリと顎を固定されたまま肉厚な舌で咥内を舐め回される。酒の匂いに再び取り戻しかけた意識が薄れかけるが、必死に耐えた。  舌を引っ込めることも忘れ、それを望眼に絡め取られ、更に喉の奥までねっとりと舌を愛撫されればそれだけで全身の筋肉が弛緩しそうになる。  これは、流石に後輩にするキスではない。  そもそも会社の後輩にするキスってなんなのかわからないが。 「も、ちめさん」 「……悪い、良平」  長いキスを終えた望眼は小さく口にする。  なんで謝るんですか、と尋ねようと開いたとき。不意に伸びてきた指先に胸のボタンを外される。性急な仕草で胸を揉まれ、「ん」と小さく喉奥から声が漏れてしまった。 「ぅ、や、だめ……っ、です、こんな……」 「ああ、やっぱそうだよなあ。……俺もそう思う」 「よ、酔って……ますか?」  胸の先端、腫れた乳首を柔らかく絞るように刺激され、身動いだ。望眼は少しだけ黙り、そしてその代わりに凝り始めた乳頭を指の腹で押し潰す。その刺激にびくびくと背筋が震えた。 「ぁ、んん……ッ!」 「そうだな、そういうことにしておいてくれ」  それってどういう意味だ、と聞き返すよりも先に、ちゅう、と項に押し付けられた唇に軽く皮膚を吸い上げられる。 「ん、……っ、ぅ……ッ」 「悪い、結構……キたわ」  逃げようとすれば、そのまま望眼は覆いかぶさってくる。両腕で退路を断たれ、動けなくなったところを正面から覗き込むように唇を塞がれた。 「……っ、ん、う……っ」 「は、……」  これもそれも、酒のせいだ。そうだと言ってくれ。  啄むようなキスをされながら、伸びてきた手に腿を撫でられる。そっと開かされる股の間、腰をそのまま持ち上げられ、股の間に膝立ちになった望眼の下半身をこすりつけられるのだ。  暗くても分かるほど勃起したその硬いそれを、スラックス越しに性器を性器で潰すように柔らかく何度も押し付けられる。それをキスしながらされるものだから、正気でいることなどできなかった。 「良平、いいか?」  なにが、などと流石の俺でもここまでされたら嫌でも理解する。  腰を動かし、股の奥、尻の穴を探るように硬く盛り上がった性器をぐりぐりと押し付けられれば口の中が乾いていくのだ。額に汗が滲む。  酒は、切れかけていた。呂律はまだ少し怪しいが、それでも前後不覚ではない。しっかりと目の前にいる男が誰なのか、認識できていた。 「……いいか、良平」  頭を掴まれ、両腕で抱きこむように真正面から覗き込まれる。この人はこうやって他の人にもやったのだろうか、などとぼんやりと思いながらも俺は否定するための言葉を探すが、それを下腹部を押し上げるモノにかき乱されてしまうのだ。  呼吸が浅くなり、小さく声が漏れる。 「良平」と、強請るように鼻先を擦れさせられた。  胸の奥に広がる赤色の熱は次第に広がり、思考力が徐々に低下していく。  駄目なのに、駄目って断らないといけないのに。  きっと、望眼は俺が断ればこれ以上はなにもしてこない。わかっていた。そうしたら明日もなにもなかったように顔を合わせて、仕事のことについて教えてくれるのだと。  わかっていたのに、胸を揉まれ、ちゅう、と唇の薄皮を吸われると頭の奥から溢れ出す性欲に理性が飲まれてしまうのだ。 「……っ、ん、す、こし……だけなら」  大丈夫です、と小さく頷いたと同時に、俺は望眼に噛み付くようにキスをされた。

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