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09
モルグを寝かせたまま、一先ず着替えて身支度を整えた俺はそのまま部屋を出る。
あんなに疲れてるモルグを起こすのは忍びなかったし、そろそろこの会社にも慣れて来た。迷子になることもないだろう。
なんだかんだこうして一人で出勤するのは初めてではないか?
そんなことを考えながら、社員寮を出て本社へと向かう。
道中いろんなヴィランとすれ違った。皆仕事帰りなのだろうか、挨拶しようと思ったがなんとなく話しかけづらい雰囲気だったので大人しく通路の隅っこをとぼとぼ歩くのが精一杯だった。
エレベーターを降り、本社ロビーに出る。
今日もロビーは騒然としていた。けれど、昨日のぴりついた空気とはまた違う。
ロビー前、なにやらガラの悪い集団が集まっているのを見つける。なにやら楽しそうな雰囲気すらあって、望眼からはあまり関わるなと言われたばかりだけどもなんとなく気になってちらりと目を向けた。
そして、そこにはよく知った顔があった。
集団の輪の中央、集団の中でもよく目立つその派手な青髪の大柄な男――ノクシャスも俺に気付いたらしい。「お」とこちらに目を向け、そして、集団から抜けてこちらへと歩いてこようとしたときだった。そのノクシャスの隣にいたフードを被った男がこちらへと向かってくるではないか。
「あっ、おいテメエ!」と慌てて止めるノクシャスを無視して俺の目の前にまでやってきたその人物は、「え、あ、どうも」と固まる俺を前に「善家」と俺の名前を呼ぶのだ。
「へ……」
その声は、と驚いた矢先のことだ。いきなり手を掴まれ、ぎょっとする。傷だらけの拳、それから、フードの下から覗く赤い髪。
そいつは「俺だよ、俺」と被っていたフードを脱いだ。
「っ、く、紅音君……?!」
「ようやく会えたな、善家。――久し振り」
そう俺の顔を見つめたまま紅音は、紅音朱子はいつの日かと変わらない明るい笑顔で笑った。
しかし、それもほんの一瞬の間だった。
「テメェ、勝手に逃げんじゃねえって言ってんだろうが! おい、新人!」
追い付いたノクシャスはそのまま紅音のフードを掴み、「あとすぐフード脱ぐのもやめろ」とそのまま乱暴にかぶせる。
「い゛……ッ、なんだよ、暑苦しいんだよ、これ。もう皆と顔合わせしていいってのはそっちだろ」
「良いって言ったけど顔をべらべら見せんなっつってんだよ、馬鹿」
「人に向かって馬鹿馬鹿言うんじゃねえよ」
「ああ?」
待ってくれ、なにが起こってるんだ。
まさかこんなところで、こんなタイミングで紅音と再会できるとは思わなかっただけに戸惑った。
しかも、なんでノクシャスと一緒にいるんだ。
なによりも、一番驚いたのは紅音自身だ。数年ぶりに再会したレッド・イルだった彼はこんなに明るくなかった。それなのに。
「あー……ったく、お前には一応後で挨拶がてら顔出すつもりだったんだけどな。……てか、おい、一人か? お前」
「あ、はい……モルグさんが一応いたんですけど、疲れて眠ってしまって……」
「ああ? なにやってんだあいつは……クソ、まあいい。お前、これから仕事か?」
「はい、先に食堂でご飯食べようかと思って……」
「俺も行く」
そう食い気味に口を挟んできたのは紅音だった。
「なあ、久し振りだし色々話したかったんだよな。ここにいる連中ってなんだか話し合わねえもん、こいつとか特に」
「クソガキ、人を指差すんじゃねえ!」
「……ほら、すぐ怒鳴るもんな? 皆短気すぎだろ、おっかねーよ」
「な、いいだろ?」と人懐っこく笑いかけてくる紅音。あのときと同じだ――同じすぎた。戸惑いながらも、俺はノクシャスをちらりと見た。
ノクシャスも俺の言いたいことが伝わったのか、「飯だけだからな」とそっぽ向いて応える。
「よっしゃ! ノクシャスの許可も貰えたし、その食堂まで案内してくれよ。善家」
「う、うん……それは構わないけど……」
嬉しい再会のはずなのに、なぜこうも胸騒ぎがするのだろうか。いそいそとフードの位置を直した紅音はそのまま俺の手を取って、ぱたぱたと歩き出した。そんな紅音に引っ張られるように俺は紅音とノクシャスとともに食堂へと向かうことになった。
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