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「そういや東風、お前、良平とは初めましてじゃないか?」 「あー……一回廊下ですれ違いました」 「すれ違いましたって、自己紹介はしてないのかよ」 「まあ、まだっすね」 「おい」と貴陸に小突かれた東風は「急いでたんですよ」と肩を竦める。そして改めてこちらへと向き直る東風。 「どうも、東風です。……さっきは挨拶できなくてごめんね」 「あ、いえ……あっ! 良平です、よろしくお願いします!」  そう猫背を曲げ、軽く頭を下げる東風に釣られて俺も自己紹介をする。  そんな俺に東風は「声でっか」とだけぽつりとつぶやくのだ。 「あ、ご……ごめんなさい」 「いや、別にいいよ。望眼が好きそうな子だね」  どこか眠たげな顔のまま手元の茶色い液体にストローを刺して咥える東風に、丁度マフィンを咀嚼していた望眼が咽る。 「東風さん、その言い方やめてくださいよ」 「や、別にそのままの意味なんだけど……なに?」 「はぁ……こっわ。……まあ確かに良平は可愛いですけど」  も、望眼さん……。  ごにょ、と口籠りながらそっぽ向く望眼の反応があからさますぎて、つい釣られて顔がじんわりと熱くなった。  どう反応していいのか困ってると、「貴陸さんも好きそう」と東風は呟く。瞬間、貴陸は「はは、まあな」と大きく口を開いて笑うのだ。 「良平みたいな弄れもせず真っ直ぐな部下は誰でも可愛いだろ」 「はは、言いそー。俺は普通寄りっすけど、因みに」 「え」 「あー良平気にすんな、東風さん誰にでもこういう人だからな。ちょっとデリカシーないだけで、ほら落ち込まなくていいからな」  あまりにもあっけらかんとした口調で「普通」と言われたことはなかなか衝撃的で、望眼のフォローになんとか自分を保つことができた。  なんというか、独特な雰囲気の人だ。柔らかい口調や態度と見せかけて、実際は掴めないというか。  この人が洗脳の能力持ってるのか……。  でも確かにこの人なら荒っぽいヴィランの人たちものらりくらり躱してしまいそうだ。 「そういや良平とは久しぶりだな。望眼からちょこちょこお前が頑張ってるって話は聞いてたんだが……悪いな、望眼。任せっぱなしで」 「あー別にいいっすよ、俺も助けられてるんで」 「い、いえ……俺の方こそ望眼さんに色々教えていただけて、勉強させてもらってます」  なんだかこんな風に褒められるとムズムズしてきて、耐えられずぺこぺこと頭を下げれば望眼と目があった。  すぐ目を逸らすのも変な気がして、つい見つめ合うような形になったときだ。 「ほーん。随分と仲良くなったんだな、お前ら」  にやにやと笑う貴陸にぎくりとした。  他意はないと分かっていてもだ、酒の勢いとはいえど一線を越えてしまった今冗談に聞こえなかった。 「貴陸さん、やめてくださいよ」 「はは、照れんなよ。なんだ望眼、お前も照れるくらいはするのな」 「……それより、わざわざここに来たってことは俺達に用があったんじゃないんすか」  話題を変えようとする望眼の言葉に、貴陸は笑顔を消した。  ただたまたま貴陸たちも食事にきただけだと思っていただけに、その反応に驚く。 「ああ、まあな」 「ここ出ます?」 「いや、別にこのままでいい。東風もいるしな」  一瞬何を言ってるのかわからなかったが、もし聞かれたら東風の能力を使えばいい、ということか。  なんとなく背筋が伸びる。もしかして俺、邪魔じゃないのかと思って望眼と貴陸へと交互に目を向ければ「お前もそのままでいい」と貴陸が応えた。また心を読まれてたのか。 「お前ら、ハイエナ野郎の噂は知ってるか?」 「あー例の同業者っすよね」 「ああ、そうだな。その件で、今回査察が入ることになった。現在所属している社員全員にな」  貴陸の言葉に、望眼は「うげ」と露骨に面倒臭そうな顔をする。 「あ、あの……査察って……」 「ああ、そうかお前はわからないか。……分かりやすく言えば三者面談みたいなやつだよ。営業と担当と、それから査察官が来るようになってる。今回の場合は、お前の担当も望眼に見てもらうから気にしなくていいぞ」  そう貴陸は笑う。  なるほど、三者面談と聞いたら分かりやすい。

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