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23※
「ぁ……、あ……ッ!」
まだ、大きくなるのか。
遠くなる意識の中、挿入される舌に条件反射で舌を絡めなりながらも俺は執拗なストロークに声を抑えることもできなかった。
肉幹に絡みつく太い血管の凹凸、そこを流れる血液すらも感じるほど過敏になっていた身体は最早ナハトに与えられるもの全てが恐ろしくて。
「な、はとさ……っ、ぁ、あ゛ッ」
「……っ、は、アンタ、顔ひどいことになってるよ」
「ぅ、や、」
見ないでくださいというよりも先に目尻に溜まった涙ごと舐め取られる。
興奮したように身体を抱きかかえられたまま、性急な動きで腰を打ち付けられるだけで呼吸すらもままならない。
ナハトさん、ナハトさん、と塞がれた口の中何度もナハトの名前を繰り返し呼びながら、喉元まで這い上がってきた快感が溢れるのを感じた。
「ひ、ぅ゛……ッ!」
「……っ、良平……ッ」
根本まで深く突き上げられた体勢のまま、ナハトに強く抱き締められる。
そのままナハトが動きを止めたとき、腹の奥、性器は跳ねた。ドクドクと鼓動とともに流れ込んでくる熱に堪らず背筋が震え、目の前のナハトに縋る。
「は、ぁ……ッ、う……ッ」
ナハトの熱で満たされる腹部。
苦しいのも恥ずかしいのも全部上塗りされるみたいにナハトでいっぱいになり、気付けばナハトの腕の中、俺は意識を飛ばしていた。
それから、どれほどの時間が経ったのだろうか。
気付けば俺は寝間着に着替え、ベッドの上に寝かされていた。
恐ろしく全身がだるく、下半身、特に足の関節の違和感が酷かった。全身の火照りが取れないまま、ぼんやりと辺りを見渡したとき、隣に誰かがいることに気付いた。
「……え」
「――……あんた、寝すぎ」
薄暗い部屋の中、聞こえてきたのは気怠そうなナハトの声だった。目を拵えれば、思いの外近いところに隣に横になったナハトがいて口から心臓が飛び出そうになる。
「な、ナハトさ……っ」
「……無理して話さないでいいよ。喉、酷いことになってるから」
「……っ、す、みません……」
言われて小さく咳払いをする。
ナハトの言うとおり、すっかり声は枯れて喉がガラガラになった。けれど、それはナハトも同じだ。
少しだけ低くなった声と相俟って、なんだかいつもよりもナハトの声が優しく聞こえてドキドキしてしまう。
そして、まだ寝起きだった頭が段々とはっきりとしていく。
――ああそうだ、俺、ナハトさんと……。
ナハトのことを怒らせてしまったことや、色々恥ずかしいことをされた記憶が蘇り、更に首から上がポカポカと熱くなっていく。
どんな顔してナハトの隣にいたらいいのか分からなくて、咄嗟に起き上がろうとしたとき、ナハトに腕を引っ張られた。
「……まだ寝てなよ」
「な、ナハトさん……」
「仕事、今日休めば」
「いや、それは……大丈夫です」
「本当に?」
そう、同じように起き上がるナハトに腰を撫でられ、下半身がびくりと震える。ただ腰を撫でられただけなのに、お腹の奥がぎゅっと締め付けられるような感覚が広がった。
「……っ、ん、あの、ナハトさん……」
「…………その、悪かった」
「――へ?」
「や、りすぎた……本当は、あそこまでする、つもりは……なかったんだけど」
――一瞬、耳を疑った。
あのナハトから謝罪されるとは思ってなかったし、ぽつりぽつりと言葉を紡ぐナハトに頭の中から大量のクエスチョンマークが飛び出ては溢れ変える。
――というか、なんだこれは。
――ナハトさんが優しいなんて。
「……良平?」
「……」
「ねえ、まだどこか痛いの?」
「い、い、いえ……だ、ダイジョウブ……です」
ドッドッと早鐘打つ心臓を抑える。
正直何一つ大丈夫ではなかった。熱は上がり、汗は止まらない。
そしてなにより、ナハトの顔を見ることができなかった。
確かにナハトは俺のこと、『嫌いではない』とは言った。俺もナハトのことは『好きです』って言った記憶はある。
けど、いや待ってほしい。なんだ、なんなんだ。
「良平?」
「ひゃ、ひゃい!!」
「うわ、……うっさ」
……あ、めちゃくちゃ鬱陶しそうな顔だ。
そんないつものナハトの顔を見てほんの一瞬安堵するのもつかの間、ナハトは小さく笑った。
「……変なの」
――ナハトさんが笑ってる。
いつもの無愛想で短気で無表情か怒った顔しかしなかったナハトさんが。
それ以上はもう俺の記憶は定かではない。
あまりにも甘ったるく優しいナハトに耐えられず、逃げるようにベッドから飛び出した俺は下半身ガクガク震わせながら「お、お風呂!入ってきます!」とナハトから逃げてしまったのだ。
そうすることでしか俺は俺を保つことができそうになかったから。仕方ない。
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