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紅音朱子が次の俺の担当になる。
そして、安生も恐らく俺と紅音の関係を知っててあの反応だったのだろう。
少し驚いたが、とにかく自分にできることをやるまでだ。
――安生と貴陸を見送ったあとの営業部にて。
早速俺は紅音の連絡先に担当になった旨のメッセージを送ることにした。
そして一息つき、返信が帰ってくるまで待つ。
紅音のこと、兄が手を回してくれたのだろうか。
気になったが、そうでなければ訳ありである紅音を俺に近付けないだろう。兄がそれを良しとしないからだ。
そこまで考えて、最近兄と会ってないことを思い出す。忙しいのだろうが、なんだかホームシックのような気持ちになりかけるのを必死に堪えた。
それから、タブレット端末がメッセージを受信してることに気付く。慌てて確認したら、それは紅音からではなくサディークからだった。
前回と同じように、今日会えないかというメッセージが入っていた。
「う、うーん……」
またサディークから連絡があったら望眼は自分に教えろと言っていた。しかし、今日は望眼が忙しいだろう。
けれど、今回を逃したらまた会えなくなるかもしれない。
一応サディークに会って、俺の方から望眼に担当が変わったということを説明した方がいいかもしれない。サディークにはそれから望眼に会ってもらえばいいだろう。
そう思い、俺はサディークに「大丈夫です」と返事を送る。
それからサディークとは昼飯の約束をすることにした。
望眼から注意されたことを念頭に置き、念の為人が多い場所を待ち合わせに指定する。それから、食事する場所は俺が決めていいという許可ももらった。
社内の食堂ならば、流石にサディークと変な感じになることはないはずだ。
そう、サディークに返信すればサディークは了承してくれる。
「……」
仕事中ではあるけど、一応望眼にもサディークから連絡あって会うことにしたと伝えておくか。
勝手に会いに行くなと怒られるだろうか。なんて思いつつ、取り敢えず望眼にメッセージだけ送り、俺はサディークとの予定の時間まで執務室の掃除をして時間を潰すことにした。
◆ ◆ ◆
昼下り。俺は執務室を後にし、サディークとの待ち合わせのため本社のフロントまでやってきていた。
あのあと望眼から連絡があり、すごく心配していたが一応本社の社員食堂で会う予定だと伝えると一まずは納得してくれたようだ。
『ホテルにはついていくなよ』と念押しされて、そんな望眼さんじゃあるまいしと喉元まででかけて「分かりました」とだけ応える。
というわけでサディークを待つこと暫く。
サディークに会ったときの謝罪のシュミレーションをしていると、いきなり背後から「あ……」と声が聞こえてきた。
「……良平」
気のせいかと思ったが、気のせいではなかった。
名前を呼ばれ、慌てて振り返ればそこには背の高い男がいた。
「サディークさん」とその人物の名前を口にすれば、話しかけづらそうにしていたサディークは目を泳がせる。
「わ、悪かった……いきなり呼び出して」
そして、俺が謝ろうとする前にサディークに先越されてしまう。
久しぶりに会ったサディークは以前よりも顔色が悪そうだ。周りの目を気にしてるのか、なんだか落ち着かない様子のサディークが気になったが、サディークに謝らせてばかりなのもおかしい気がして。
「いえ、こちらこそ……この間はサディークさんに失礼な真似をしてしまってすみませんでした!」
「うわ、なに謝ってんの」
「……その、ずっと直接謝りたかったんです。俺の方から誘うような真似をしておいて、サディークさんを避けるような真似……」
「あーストップ、待って、声でかいって良平……っ!」
咄嗟に、赤くなったサディークは慌てて俺の口を塞ぐ。そして、触れてしまったことに気付いたらしい。慌ててサディークは俺から手を離した。
それから、バツが悪そうに俯くのだ。
「いや、あれは……十割俺のせいだから。その、もう……触らない」
「俺の方こそ、この間は悪かった」とそっぽ向いたままサディークはぼそぼそと謝罪を口にする。
何を言っても許してもらえないだろうと思っていただけに、サディークの方からそんな風に言ってもらえるとは思わなくて驚いた。
「さ、サディークさんは悪くないです……っ! あの、確かにその……びっくりしたんですけど、元はといえば……」
「ねえ待って、そこ掘り下げなくていいから」
「あ、すみません……俺また……」
謝罪に謝罪を重ねてしまう俺を見兼ねたように、サディークは気を取り直すように咳払いをする。
それから、先程まで天井や柱を見ていたその目がこちらを向いた。
「……取り敢えず、移動しよっか。……ここじゃ落ち着かないし」
「は、はい……」
取り敢えずサディークに許してもらったということに気が抜けてしまいそうだった。いけない、一応これも仕事の一環なのだ。
いつまでも望眼に頼ってばかりではいけない。今回はちゃんとサディークとこれからの話もしないといけない。
そう気合を入れ直し、俺はサディークとともに場所を移動することにした。
「………………」
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