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 それから、サディークとのこれからについて考えてはみたものの、やはり前途多難のようだ。  サディークを満足させるには望眼を説得させなければならない。  考えれば考えるほど頭がパンクしてしまいそうだ。そんな俺をちらりと見ては、サディークはなんだか落ち着かない様子だった。 「サディークさん、どうかしましたか?」 「……いや、別に。照明、明るくて落ち着かないだけ」 「あ、そうなんですか……? 確かに、サディークさんが選ばれる場所って暗いところが多いですもんね」 「……………………」 「あっ、いや、サディークさん自身が暗いとかそういう意味ではないので……!」 「……いや、別に何も言ってないし。むしろ、そのフォローの方がなんか嫌なんだけど」 「う、す、すみません……」  なんて他愛ない会話を交えつつ、食事を済ませる。  俺が手にしていた空のドリンク容器をテーブルに置いたのを見計らったように、サディークは「もし」と小さく口を開けた。 「もし、担当があんたに戻らないんだったら……別にそれはそれでいいよ」 「え?」 「――その代わり、新しい担当のやつとも会うつもりはないけど」 「……っ、サディークさん、それって……」 「そのままの意味。元々、俺はお荷物みたいなものだったし。この会社の」  言いながら、ふらりと椅子から立ち上がるサディーク。背中を丸めたまま「それじゃ、出るか」とサディークに声をかけられる。  確かに最初、俺がサディークの担当になると決まったとき、サディークは自信喪失して仕事に対してのモチベーションも低い状態ではあった。  それでも、形だけでもちゃんと会社に出社してくれるようになったサディークのことを考えると、やはりこのまま終わらせたくないという気持ちが俺の中にはあった。  サディークと一緒に社員食堂を出たものの、これからどうするかなどなにもプランを考えていなかった。  本当だったらもう少し食堂で込み入った話もしたかったが、やはり場所が悪かったようだ。  けれどこのまま解散するわけでもなく、食堂を出るなり歩き出すサディークの後を追いかける。 「あの、サディークさん、待ってください……っ」  サディークの背中はどんどん離れていき、咄嗟にその腕を掴んで止めようとするのを自制した。その代わりに名前を呼べば、ようやく俺が置いていかれそうになっていたことに気付いたらしい。  振り返ったサディークは慌てて立ち止まり、そして俺が追い着くのを待ってくれた。 「あ……ごめん、早かった?」 「いえ、俺の足が遅いだけで……その、これからどこへ……」  ――行かれるのですか。  気付けば食堂を出て、そのまま外部へと繋がる地下通路までやってきた俺たち。  辺りには今から任務へと向かうであろう社員たちの姿もちらほらある。 「……良平は別に着いてこなくてもいいよ」 「サディークさん……」 「君だって、俺以外の新しい担当がつくんだろ。……だったらそっちに集中した方がいいだろうし」  俺が担当でなければ仕事はしないと言ったと思えば、今度は突き放すような物言いをしてくるものだから余計困惑する。 「さ、サディークさん……」 「……ごめん」  それはなんに対する謝罪なのだというのか。  そのままサディークは俺に背中を向け、歩き出す。ヒールの音が響く通路、俺は暫くその背中を見つめることしかできなかった。  ――どうするのが正解だったのだろうか。  一人残された通路の中、とうとう俺は外へ出ていくサディークのことを追いかけることはできなかった。  深い溜息をつきながら端末を取り出せば、望眼から連絡が入っていることに気づく。  しまった、確認するのを忘れていた。慌てて折り返そうとしたタイミングで丁度望眼から通信がかかってきた。 「あ、は……はい! 良平です!」 『ようやく出やがったな。今どこだ?』 「あ、えと……第二ゲートの通路のところに居ます。すみません、電話出れなくて」 『いや、いいんだ。……第二ゲートだな? そこから動くなよ、すぐにそっち行くから』  なんだろうか。急いでるような望眼の声が気になったが、動くなよと言われればどうすることもできない。 「わかりました」と望眼に告げ、通話が途切れて間もなくしてホールの方から望眼と安生がやってきた。本当にすぐだった。  望眼は俺が一人でいるのを見ると、辺りを確認して「サディークのやつは?」と聞いてくる。 「えと、サディークさんならついさっき外へ……」 「うわ、まじかよ。タイミング悪いな」 「逃げられましたね、望眼君」 「あ、あの……すみません、俺が引き止められなかったせいで」  まさか二人がやってくると思ってなかっただけに、あっさりと見送った自分にうなだれる。  そんな俺に「いえ、君は気にしないで大丈夫ですよ」と安生はにっこりと笑った。 「恐らく、私達が来ると分かってたら逃げられたでしょうから」  なんとなく安生の笑顔から嫌なものを感じた。  笑みの形にはなっているが、その奥の目が笑っていない。 「……あの、なにかあったんですか?」  思わず俺は小声で望眼に声をかければ、望眼は「まあ、色々な」と誤魔化すように笑うのだ。 「まあ良平君には言ってもいいんじゃないですか、望眼君。……それに、恐らく彼の協力は必須になってくるでしょうからね」  ばつが悪そうな望眼の横、安生は目を細めて笑うのだ。向けられた目になんだか不穏なものを感じながらも状況が飲み込めず、ひたすら頭の上にクエスチョンマークを飛ばすことしかできない俺。そんな俺に、望眼は「そーっすね」と疲れたような顔をして溜息を吐くのだ。 「……まあ、ここじゃなんだ。移動するぞ、いいよな?」  この二人に挟まれて拒むことなどできるはずもない。俺は考えるよりも先に頷いた。  そして、一番近いラウンジ――その奥にある個室へと移動することになる。

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