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「……おい、良平。大丈夫か?」  安生が立ち去ったあとのラウンジにて。  暫く魂が抜けたようになっていた俺に、望眼はそっと声を掛けてくれる。 「も、望眼さん……本当なんですか? その、サディークさんが……」 「ここ数日、ダウンタウンで張ってた連中から連絡が入ったらしい。信頼できる筋だし、少なからずサディークのやつが接触してるのは事実だろう」 「たまたま、その、お友達だったとかいう可能性は……」 「まああるだろうな。だとすればツイてないにも程があるが、それと同じくらい『あいつが裏切り者じゃない』っていう証拠もねえんだよ、上は」 「……」  だとすれば、俺がサディークの能力のことを離せばサディークは裏切り者だと確定してしまうということか。  先程つい口を滑らせなくて良かったと思う反面、何故サディークがそんな連中と会っているのかという疑問もあった。 「……」 「良平、色々一気に言われてまだ混乱してるだろうけど、気付かなかったお前自身が悪いと言われてるわけじゃないんだからな。ただ俺達は協力してほしかったって話だ」 「……はい」  わかっているつもりではあるが、やはりショックの方が大きいのも事実だ。  項垂れれば、「良平……」となにか言いたそうに望眼の手が俺の肩に伸びる。と、そこで俺は閃いた。 「そうだ!!」 「うおっ! な、なんだ? どうした、急に――」 「俺、サディークさんに直接会って話してきますっ!」  そう慌ててラウンジから飛び出そうとしたとき、「こらこらこらこら!」と望眼に羽交い締めにされ止められてしまった。 「も、望眼さん……! 下ろしてください!」 「んなアホなことを言い出す後輩をこのまま野放しにするわけねーだろって! ……ったく、一旦落ち着け! 本人に直談判は最後の最後だろうが普通!」 「う……だって……」  俺に出来ることと言えば、こうしてサディークと連絡取れて、会ってもらえることくらいしか思い浮かばないのだ。  久しぶりにちゃんと望眼に怒られて項垂れてると、「悪い、大きな声出して」と望眼はそのままゆっくりと俺を下ろし、再び椅子に座らさてくる。 「でも、……確かに今回ばかりはお前がキーパーソンになるだろうな」 「きー……ぱーそん……?」 「まあ強力な助っ人みたいなもんだ。……なあ、良平。本当になにも知らないんだよな」  そのまま正面へと回ってきた望眼に、膝の上に置いていた手を掴まれる。上目で覗き込むような体勢で真剣な顔して尋ねられ、思わず「え」と間抜けな声が口から漏れてしまった。 「だからほら、サディークの能力のこととかだよ。何か隠してるわけじゃないよな?」 「…………………………隠してません」 「……………………」  望眼の目の色が変わったことに気付いてしまい、『しまった』と思った。  まずい、と目を逸したとき、そのままがっしりと両頬を掴むように固定される。そして望眼の方を向かされるのだ。 「も、もちめひゃ……やめへふははひ……っ」 「おい、良平。俺の眼を見ろ」 「う、や……」 「や、じゃない。もう一回聞くぞ? お前、何も知らないよな?」 「…………ひ、りません」 「本当か?」 「…………はひ」 「嘘吐いたら今この場でめちゃくちゃに抱くからな」 「えっ?!」  さらりととんでもないことを言い出す望眼に驚いたとき、「嘘ついてないなら、なんも怖がることなんてねえだろ」と望眼は笑う。  ――そうだ、この人もヴィランだった。  冷や汗がダラダラと滲むの必死に悟られないようにしながらも、俺はこくこくと合わせて頷いた。 「よし、わかった。……ほら良平、口を開けろ」  立ち上がり、そしてスーツからなにかを取り出す望眼。なんだなんだと思いながらも言われるがまま口を開いたとき、口の中に望眼の指が入ってくる。 「っ、ん、う……っ!」 「噛むなよ。……ほら、そのままごっくんするんだ」 「ん、う……」  なにかが舌の上にあるのを感じながらも、俺は言われるがままそれを飲み込む。瞬間、心臓が大きく跳ね上がる。じんわりと熱が染み渡るように、内臓から指先までぽかぽかしてきた。 「も、もちめひゃ……これ……」 「自白剤だ」 「じ、自白剤……?!」 「ああそうだ。と言っても、大丈夫だ。うちの会社が作ったポピュラーなやつだから」  ポピュラーな自白剤ってなんだ?!と青ざめ、慌てて吐き出そうとする俺の手を掴んだまま望眼は「おっと」と笑う。 「嘘は吐いてないんだったらなにもそんなに怯えることはないだろう、良平」 「も、もちめひゃ……」 「……悪いな良平、これも俺の仕事の内だ」  恨むなよ、と笑う望眼の顔はどこかいつもよりもぎこちない。複雑に感情が入り混じった目で俺を覗き込むのだ。

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