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俺はノクシャス、安生とともに、喫茶店の二階へと連れて行かれた。
そこは多数のお客さんが利用する一階の飲食スペースとはまた違う、所謂個室の扉が並んでいた。その一番奥へと連れて行かれる俺。
その扉を開けば、あの扉型転移装置がそこには取り付けられていた。
「ここを抜ければ本社へと戻ります。君にはこれから何食わぬ顔で再び待ち合わせ場所へと向かってください」
「あ、あの、……」
「ノクシャス君には善家君の護衛を。無論、影からでお願いします。どこにネズミがいるかも分かりませんので」
「別にいいけどよ、サディークのやつはお前一人で大丈夫か?」
ノクシャスの言葉に、安生は「ええ、私には優秀な部下たちもいますので」と微笑んだ。
薄々気付いていたが、もしかしてノクシャスは安生がニエンテだということを知らないのだろうか。
思わず安生を見上げれば、安生は『しっ』と小さく微笑む。……なるほど、俺と兄以外の人は知らないようだ。
「それと、善家君にはこれを渡しましょう」
そして、思い出したように安生はその個室にあるテーブルの上、どかりと置かれたケースを手に取る。弁当箱くらいの大きさのそのケースを開ければ、中には腕時計が入っていた。
「これは私からのプレゼントです」
「……え?!」
「モルグ君が作ってくれたバリア装置ですよ。装着した者に身の危険が及べば、一度だけなら全ての衝撃を吸収するという優れものです。本来ならば高額で販売されるものなのですが、未だ試作品段階ということでしたのでプレゼントします」
後半の説明は頭に入ってこなかったが、つまりすごいやつということだけは分かった。
ケースの中から腕時計取り出した安生は、「善家君、手を」と促してくる。
そんな俺には勿体なさすぎる、ノクシャスとかのが持つべきなのではないか。そう思ったが、断る暇もなかった。そっと手を取られ、手首に巻かれる革製のベルトはよく肌に馴染んだ。
「い、いいんですか……俺に、こんな……」
「寧ろ、貴方だからこそですよ。善家君。……ノクシャス君は何度爆破されようが死にませんが、生身の貴方は違います」
「……」
「良平、大人しく貰っとけ」
どうやらノクシャスも安生と同じ意見らしい。
まあ、確かにこの中で一番すぐ死ぬのは俺だろう。わかりました、と頷き、俺は安生からのプレゼントを受け取った。
それにしても、腕時計なんてどれくらいぶりだろうか。最近は時間確認もタブレットで行っていたのでなんだか落ち着かない。
「似合ってますよ、善家君」
「あの、ちゃんと返します……」
「言ったでしょう、プレゼントだと。……それより二人とも。そろそろ行動をよろしくお願いします」
「は、はい……っ!」
「はいはい」
これから作戦が始まるのだと思うと緊張する。
ノクシャスに「おら、行くぞ」と首根っこを掴まれ、俺はそのままその転移装置で再びevil本社へと帰されることになったのだ。
相変わらず文明の機器はすごい。
あっという間に戻ってきたのは見慣れた幹部用の通路だ。人気の少ないその通路から俺は再び外へと出ることになる。
そのときにはもうノクシャスとはバラバラになった。
一応どこからかはノクシャスが見守ってくれているのだろうが、流石ヴィラン。どこにいるのか一般人の俺からはわからない。
そんな状態でダウンタウンまで出た時、先程アジトの方からなにかが爆発するような音が聞こえてきた。それは割りと離れた現在地まで聞こえてくるほどの空気、そして地盤の震動。
「……っ、な」
なんだ、と震源地らしき方角を振り返ろうとしたときだった。
狼狽えているのは俺だけで、他のヴィランたちはちらほら「またか」という顔するくらいだ。
けれど、先程聞いた『デッドエンド』というヴィランの能力を思い出す。
――まさかな。
そう思いたいのに、胸がざわついた。
辺りにノクシャスがいないか見渡したが、見当たらない。けど、ノクシャスならきっと着いてきてくれるだろう。そんな気がしたから俺は思わず走り出した。
サディークの待ち合わせ場所へ――爆発音のする方へ向かって。
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