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道ゆくヴィランたちは顔色変えることもない。
まるで日常茶飯事とでも言うかのような顔をして各々の生活を送っている中、俺はひたすら走っていた。
日の射さない地下のヴィラン街、そしてそのネオン照らす真っ暗な空にどす黒い煙が昇ってるのを見て、俺は更に足を進ませた。
煙が近付くに連れ、次第に行く先に野次馬が集まっていた。
「す、すみません……! ちょっと通ります……っ!」
そう謝りながら半ば強引に人混みを駆け抜けて行く。進めば進むほど野次馬の壁の層は熱い。
そして壁のように集まった人混みに弾き飛ばされ、バランスを崩したとき。
「……っ、たく、なにやってんだ、おい」
ぼふん、と硬いクッションに当たったかと思えば、頭の上からノクシャスの声が落ちてくる。
「の、ノクシャスさん……」
「ここで少し待ってろ」
待ってろってどういう意味だろうか。
そう瞬きしたときにはノクシャスの姿はなかった。どこへ行ったのだろうか、と咄嗟にノクシャスを探したところだった。
少し離れたところから今度は何かが壊れるような音が聞こえてきた。そしてビルが並ぶその咆哮から黒い煙が昇る。
「……ッ!」
またなにかがあったのかと思ったが、先程の爆発よりは威力は小さく思えた。
――まさか、ノクシャスさんか?
今度はあっちか?と楽しげに移動していくギャラリーたち。普通ならば爆発のせいで建物が崩壊するのではないかと爆心地を避けるはずなのに、なんというタフさだ。
大丈夫なのかと別の意味で心配になってきたが、今はサディークのことが気がかりだった。
ありがとうございます、ノクシャスさん。
そう心の中でノクシャスにお礼を言いつつ、俺は大分緩和されたギャラリーの隙間を縫って先を急いだ。
――ダウンタウン裏通り、アジト前。
「サディークさん!」
そこに蹲る見知った姿を見て、思わず名前を呼んだ。
やはり、心配していたとおり爆心地はあのアジトだった。大きく穴が空いたそのアジト前、立っていたサディークは俺を見た。
「……っ、良平」
来るな、と、サディークの唇が動いたときだった。
「おっと、アンタが良平か」
すぐ頭の後ろで声が聞こえたと思った次の瞬間、いきなり背後から肩を抱かれる。
ぎょっとし、振り返った瞬間、そこにはどこかで見たことのある顔の柄の悪い男が立っていた。金髪に派手な服装。
そうだ、こいつは――。
「デッドエンド」
「なんだ、俺のこと知ってたんだ」
「なら、勿論俺の能力も知ってるよな?」ぐい、と伸びてきた手に肩を掴まれ、息を飲んだ。カチリと何かが切り替わるような音が聞こえてきたのだ。
「おっと、動くなよ。……お前らもだ。こいつの服を爆弾に変えた」
「え……っ?!」
「うるせ……っ、騒ぐな! 爆発してえのか!」
「ぅ、ご、ごめんなさい……」
怒鳴られ、思わず竦んでしまう。
青筋浮かべたデッドエンドの言葉に、俺もサディークも――そして、丁度俺たちを包囲していた黒服たちがざわつく。
黒服たちを制止した安生は笑うのだ。
「なるほど、確かその起爆装置は君の意識と直結しているのでしたね」
「ああそうだよ、俺が爆発しろって念じりゃこいつはお陀仏だ。わかってんのか安生!」
「ふーむ、これは困りましたねえ」
「ぁ、あ、安生さん……っ」
どこか演技かかったような態度で困った顔をする安生。
これってもしかして本気でピンチなやつなのか、そうなのか。そう狼狽えていると、目があって安生が小さく笑った――気がした。
そして、『そのまま』と安生の唇が動く。
――そのまま?どういうことだ?
そう困惑したときだった。
「おい、デッド……関係ないやつは巻き込むなって言っただろ!」
どよめく周囲を前にそう俺たちの前に現れたのはサディークだった。
サディークさん、と思わず喉まででかけたが、「騒ぐな」とデッドエンドに口を塞がれる。
「もご……っ!」
「うるせえな、サディーク。元はと言えばテメェがノコノコ尾行されんのが悪いんだろうが!」
「そ、ソレは……」
「リーダーは俺だぞ、文句言えた立場か? ああ?」
「……っ、悪かった」
散々デッドエンドに罵倒され、俯くディークに胸が苦しくなる。
――サディークさん、謝らないでください。
少なくとも俺を助けようとしてくれただけでもありがたいが、この展開はどうなのか。
仲間割れ、なんて言葉が頭をよぎる。
と、そのときだ。
『善家君、聞こえますか』
……これは、幻聴だろうか。
安生の声が何故か頭の中に響いてくる。
『ああ、因みに幻聴ではありませんよ』
――心を読まれてる?!
と、思わず安生に目を向けたとき、『そのまま貴方はサディーク君の方を見ててください』と追い打ちをかけるように頭の中には安生の声が響く。
『これは先程君に渡した腕時計の機能です。私と直接脳波を通しての通信が可能になってます。因みに受信のみなので、君はこの声が聞こえても“聞こえないフリ”をしてください』
そんなことさっきは喫茶店で説明してくれなかったのに。もしかして味方から欺くためということなのか。内心狼狽えながらも俺は安生からの通信を待つ。
『君には一旦このまま捕まっていただきます』
え、と一瞬頭が真っ白になる。
『ああ、爆発対策は予め腕時計に仕込んでるので問題ありません。それに、デッドエンド……彼はこう見えて臆病でしてね、人を殺すことはできませんので大丈夫でしょう。ですが、恐らく監禁されているトリッドが気になります。君にはそのままアジトに潜入してトリッドを探してほしいのです』
「もご……?!」
「あ? なんか言ったか?」
「もご、もごご……」
いえ、なんでもないです、と慌ててデッドエンドに返しながら俺は安生を見れば、安生はにっこり笑っていた。
『君が危険な目に遭うことは――少なくとも命が脅かされることはないでしょう。それに、連中はご覧の通り仲間割れ状態。こうなった組織はあっという間に壊れます、どうかそれを上手いこと利用してトリッドを連れ出してきてください。
――これは、君にしかできない任務です』
無理難題、責任重大。しかもこのタイミングでアドリブで?
一方的な通信は切れる。あまりにも荷が重すぎるのではないかとか、思わなかったわけではない。
けれどそれ以上に、胸が煩いくらい激しくなる。
――俺にしか、できないこと。
頭の中には安生の言葉がずっとぐるぐると回っていた。
分かりました、と俺は小さく頷いた。
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