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――紅音君に爆弾が仕掛けられている。
一体何をしたんだ、紅音君は。俺でさえ時限爆弾は仕掛けられることはなかった。
確か、デッドエンドの能力はデッドエンドの意思が大きく関わってくる。
俺の場合は爆弾になったシャツを爆発させられずには済んだが、時限爆弾となるとそれを止めるにはデッドエンドが関わってくるのではないか。
考えれば考えるほど、デッドエンドをどう対処すべきか考えては行き詰まってしまう。
そんなとき、部屋の扉が再び開いた。
そして、そこから現れたのは――。
「……っ、おい、カノン押さないで、一人で歩けるし……っ」
「いいから、早く! サド君……っ!」
カノンに押されながらやってきたサディークだった。
「サディークさん……っ!」
まさか本当に来てくれるなんて。しかも、こんなに早く。
嬉しい反面、あのことがあった直後なだけに少し気まずさもあった。それはサディークも同じようだ。
何故自分が呼ばれたのか分からないと言った様子で、サディークは戸惑いがちに俺とカノンを交互に見遣る。
「……なに、これ。カノン」
「サド兄、話があるんだけど」
「……カノン? 話なら別にここじゃなくて……」
「話があるのは俺です、サディークさん」
身内を裏切ると分かりながらもここまで手を貸してくれるカノン。そんな彼女の気持ちを無碍にするわけにもいかない。
俺はなんとか身体を動かし、サディークへと向き直る。
言葉を選んでいる暇などなかった。
「サディークさん、俺と一緒に裏切り者になってください」
「……………………は?」
「サド兄、反応遅すぎ」
「サディークさん、ですから俺と……」
「待って、タンマ……あのさ、話全然見えないし……ってか、カノン君いつの間に良平と仲良くなってんの?」
「あたしのことはいいの、サド兄、良平君の話を聞いて」
「そういうことです、サディークさん……っ!」
「な、なに……いや、てか、なにこの状況……」
とまあ、ひと悶着ありながらもカノンの助けも借りつつ、サディークと再会することになった俺。
気まずいことには変わりないが、カノンがいることと状況が状況ということも会って俺は自分の気持ちを切り換えることができた。
「……サディークさん、カノンちゃんから概ねお話は聞きました。……ECLIPSEの人たちが、サディークさんがどうしてあんなことしたのかっていうことも」
「……っ、カノン」
カノンを見るサディークだが、カノンは「だって、良平君いい人そうだったし」と唇を尖らせる。そう言ってくれるのはありがたいが、サディークが心配する気持ちも分かる。
「サディークさん、安生さんたちは本気でサディークさんたちを捕まえるつもりです。このままだと……」
「全滅だって言いたいんだろ? ……んなこと、分かってる、言われなくてもね」
「サディークさん」
「そもそも、いつ死ぬかも分からないんだ。どうせだったら派手に巻き上げて運良く逃げれば儲けもの、……そうだろ?」
心配してるカノンを含め、話によればサディークたちを待ってるスラムの子供もいるはずだ。
いくら一時的に金銭を稼げようが、サディークたちがいなくなったら悲しむはずだ。
それにサディークの言葉から投げやりなものを感じ、ただ胸が痛くなる。
「……っ、本気でそう思ってるんですか?」
「ああ……そうだね。元々、俺みたいな社会の役立たず、居ても居なくても関係ないし。……能力があったところでこうなったのも全部俺の――……」
「……っ、サディークさん……っ!」
聞くに耐えず、俺は縛られたままサディークに突撃した。「おわっ!」と声をあげたサディークは、そのまま俺を受け止めようと腕を伸ばすが、足を滑らせそのまま二人して地面に転がる。
「い、った……」
「サディークさん、俺の心読んでください」
「……っ、なに、言って……」
「……俺も、カノンちゃんだって、サディークさんがいなくなるなんて嫌です。まだ出会って日が浅い俺がそう思うんですから、きっとサディークさんを待ってる子たちも悲しみます」
「良平……」
「信じられないならまた触ってもらって大丈夫です。……俺は、このままサディークさんたちが悪人として捕らえられるのは我慢できません」
「……、……」
身体の下、サディークはただ愕然と俺を見ていた。
俺も自分の行動に驚いたけど、悔いはなかった。口でどれほど並べたところで、人間不信なサディークは簡単に受け入れられないだろう。
秘密を知られる可能性もある。そのリスクを犯してでも、サディークに対する気持ちが本物だと本人に伝えたかった。
「……っ、サディークさん、俺に協力してください」
「なに、言ってるんだ。俺は、あんたたちの裏切り者で……」
「じゃあまた裏切ってください」
「な……あんたなにを……っ」
「俺はサディークさんは本当に悪い人ではないと思ってます。……やり方を間違えただけで、その信念や思いやりは本物だと」
「っ、あんたになにが分かるんだよ」
「俺でも分かります。カノンちゃんは自分の身が危なくなるかもしれないのに、俺に話してくれました。サディークさんのことも、ECLIPSEの目的も」
「そこまでして慕ってくれる子がいることが、それを証明してます」それも、ほぼ初対面の俺を信用してくれたのだ。少なくともその結果自身も危険な目に遭うかもしれないのに、それを分かった上で彼女は俺を信じてくれたのだ。ならば、それに返すまでだ。
サディークはカノンを見る。カノンは叱られるのを待つ子供のような顔をして俯き、そのまま俺の背後に隠れるのだ。
そんなカノンを叱るわけでもなく、寧ろ意気消沈のサディークはそのまま力なくうなだれる。
「……俺達は腐ってもヴィランだ。誰かさんに助けを求めたいわけじゃない」
「承知の上です」
「なら――」
「サディークさんは俺の担当社員です。社員の方が不満なく、働きやすい環境づくりするため働きかけるのが俺の役目でもあります」
「――それが営業部の、俺の仕事ですから」相手が裏切り者と言われていようが、俺の担当であることには変わりないのだ。
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