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54※触手
俺が監禁されていた事務所を出て更にその地下には一際崩壊が激しい施設が並んでいた。
「ここは……」
「足元、気をつけて。……ここは元々病院だったんだ」
「病院、ですか」
「ヤブ医者がやってたヤブクリニック。ある日襲撃にあって医者が逃げてくれたお陰で殆ど設備はそのまま。……羽虫が来る前はわりと重宝していたんだ」
歩く度に靴の下でぱきりと瓦礫が鳴る。
カノンの話を思い出す。ストリートチルドレン、というやつなのだろう。地上では見かけることはなかっただけに、今まで見てきた自分の世界の狭さを思い知らされるようだった。
「……羽虫さんは、他の方と同じように街で育ったわけではないんですか?」
「羽虫、あいつは……よくわからない」
「わからない?」
「ある日突然、デッドのやつが酒場で知り合ったって言って羽虫を連れてきたんだよ。……あの治癒能力もあればもっとちゃんとした機関で勤められるだろうに、何故かガキだった俺達に手を貸してくれた」
「変なやつだよ、あの人も。一銭にもなりゃしないってのに」とサディークはぼやくように呟いた。
けれど、そんな言葉とは裏腹に羽虫に対しての悪感情はないようだ。
確かに、羽虫は他の皆とはまた雰囲気が違う。……けれど、同時にデッドエンドを唆したのも羽虫と聞いてしまったからなんとなくどういう感情で接すればいいのかわからなかった。
「……ここだ」
薄暗く、寂れた病院の待合室を抜けた先の手術室、その扉には離れていても分かるほどの大きな錠前がついていた。
「この奥に紅音がいるはずだ。……それと、触手も」
「あの錠前は……」
「鍵は俺が持ってる。……取り敢えず、これ。あんたに渡しておくから」
そうサディークから黒い鍵を受け取る。
「取り敢えず、誘導……っていってもだな」
「そうですね、じゃあ俺が先に手術室に入りましょうか。それで、そのまま外になんとか連れて行って……その後に見つからないようにサディークさんが紅音のところに行くって感じで」
「……やっぱりそうなるよな」
はあ、とサディークは弱ったようにガリガリと髪をかき上げる。そして、キョロキョロと忙しなく辺りを見渡していたその目がこちらを向いた。
「……手術室の奥、手術準備室あるから。そっちまで触手を連れ行ってくれると助かるんだけど」
「分かりました。……あの、サディークさん」
「……なに?」
「もし、俺が引き付けられなかったときは……」
「その分は、俺が消すよ」
そう、サディークはコートの下、隠されるように太腿に巻きつけられたレッグシースの上からナイフの鞘を撫でた。それはつまり、仲間を敵に回すということと同義だ。
裏切れとはいったが、それは俺にとっても本意ではない。絶対そうならないように頑張らなければ。
「わかりました」と絞り出した声は、自分でも驚くほど固く聞こえた。
息を飲み、手術室の扉をそろりと覗き込む。
手術室は俺が知っている手術室とは大分様変わりをしていた。
手術室の中央には檻のような形の触手の箱があり、恐らくあそこが紅音が囚われているオペ台になってるのだろう。
――なんだか、俺の拘束に比べるとあまりにも厳重な気がする。というか、気のせいではないはずだ。
ともかく、とにかく触手の気を引くことが優先だ。触手たちの視野はそんなに広くはないようだ。それも、全て紅音に向けられているのならば。
俺はそっと触手の一部をつんつんと突く。
瞬間、指の下で触手がびくりと跳ねるのがわかった。一本の足がにゅるりとこちらへ向かってくる。
一本一本意思があるというのはあながち嘘ではないのだろう。釣られるようにして、ばらばらに他の触手たちもこちらに近付いてくるのだ。
「こ、こっちにおいで……!」
そのまま触手に捕まらないように後ずさりをしながら、俺は触手の群れを小声で呼ぶ。
一本、二本とどんどんその群れは大きくなっていくのだ。
――目も鼻も口もない触手ではあるが、こうしていると犬猫とあまり変わらない……のだろうか。
なんて思いながら、俺は辺りを探る。
そして手術室の奥、サディークが言っていた手術準備室の扉を見つけることができた。
――よし、このまま触手たちを引き連れてあっちまで行けば……!
思いながら、残った触手はいないか探していたとき。背後にぶに、となにか柔らかい壁のような感触にぶつかった。
何事かと顔を上げれば、そこには回り込んでいた触手の塊らしきどす黒い生き物がぶよぶよと俺を見下ろしていたのだ。
「ひ……っ!」
一瞬心臓が停まりそうになったが、どうやらこれが親玉ということなのだろうか。この触手生物を手術準備室に連れて行くことができれば、と考えた矢先、伸びてきた無数の触手に捕まってしまう。
「ぁ、ま、待ってください……っ、ん、む……っ!」
せめて準備室まで、と身体を捩って群がる触手たちから抜け出そうとするが、スーツの裾や襟の下、裾など、あらゆる部分から入り込んでくる触手たちな全身舐め回すように弄られ、力が抜けそうになる。
大きな舌でキスをするように唇を塞いでくる一本の太い触手を咥えさせられそうになり、咄嗟にそれを慌てて掴もうとすれば、手首を掴みあげられてしまう。
「ん、ぅ、ふ……っ!」
――は、激しい……!
あと少しで手術準備室の扉を開けることができるのだ。指先から二の腕、脇の下へと絡みつくように伸びた触手に胸の先まで執拗に嬲られ、思考を奪われそうになる。
ここで流されては駄目だ、作戦を失敗させるわけには……っ!
「っ、ふ、ぅ゛……ッ、む……ッ!」
背後から抱き締めるようにずしりとのしかかってくる触手生物。重量もあるそれに押しつぶされそうになりながら、俺は地面の上、這いずりながらでも触手たちを連れて移動する。
触手の先端から滲む粘液を乳首や脇の下、口の中などたっぷりと塗り込まれた箇所は次第に熱くなっていく。
「……ん、……っふ……」
下半身に熱が集まる。油断すれば、性器に絡みつく細い無数の触手に意識を全て持っていかれそうだった。
熱くて、全身が媚毒に犯されたように熱い。
触手に害意はない、全て善意なのだ。そう自分に言い聞かせながらも俺は一歩、また一歩と進んでいく。その度にスーツの下で触手が擦れ、熱が増す。
ずる、ずる、と亀のような速度ながらもようやく辿りついた手術準備室前。
震える指で、準備室のドアノブを掴もうとした瞬間、一本の触手が肛門を掠める。そして、息をする暇もなかった。そのまま形を変え、先端を細くした触手はそのままずぶりと肛門を犯すのだ。
「っ、ぃ゛、ぐ……ッ!!」
ぴんと大きく仰け反った背筋。脳天から雷が落とされたような快感に一瞬目が眩んだ。
頭を突っ込んできた触手は途中からぼこりと体内で形を変え、ドクドクと脈打ちながらどんどん太くなっていく。
「っ、ふ、んん゛――ッ!」
逃げるように腰を浮かせば、そのまま触手生物に足を掴み上げられ、更に引き戻されそうになるのを咄嗟にドアノブを掴んで耐える。
ぐじゅ、ぶぢゅ、と腹の中で大量に吐き出されるぬるりとした謎粘液をたっぷりと浴びながら、俺はとにかく手術準備室の扉を開くことだけに意識を集中させる。全身が震える。
言うことを聞いてもらわなきゃいけないのに、主導権を渡されては駄目だ。集中しろ。
抽挿の度に溢れる粘液がスーツの中、下着もろとも濡らしていくのを感じながら、俺は唇を執拗にこじ開け、舌を舐めてくる触手にしゃぶりついた。
「……っ、ふ、ぅ……ッ、う゛……ッ」
とにかく、一旦落ち着かせる。一本だけでもいい、それぞれが別個体というのなら少しだけでも減らすことができれば。
触手の扱いが合っているのかは分からないが、遊びたがってるのならば相手をして、遊び疲れさせればなんとかなるのではないか――というのが俺の出した結論だった。
ぢゅぷ、とリップ音を立て、ディープキスをするみたいに舌を触手に絡める。本当にとんでもないことをしてるのではないかという頭もあったが、全身に絡むぬるぬるが増していくに連れなにも考えられなかった。
そして、ビクビクと口の中で痙攣し、ふにゃりとなった触手は唇を離す。唾液で濡れ、半濁の体液を先端から滲ませ、とろりと垂らした触手はそのまま頭を下げるのだ。
「っ、ん、し、しんで……ないよね……っ?」
つん、と急に大人しくなった触手をそっとつついたときだった。今度は別の触手が伸びてきて、唇にキスをしてくる。
「っ、ん、ちょ、わかった……ッ、ぁ゛ッ、わかった、から……っ、と、取り敢えず、こっち……ぃ゛……ッ!!」
そう体重をかけ、扉を開いたとき、なだれ込むようにして覆いかぶさってくる触手たちによって半ば押し込められるように俺は準備室へと入った。
よし、これで――。
「……っ、ぃ゛、う゛……ッ!!」
瞬間、先程よりも増えた触手たちに着ていたスラックスを引き剥がされる。下半身を持ち上げられたまま、既に触手を咥えた肛門をさらけ出すように腿と腰を持ち上げられるのだ。
宙ぶらりんの状態で、剥き出しになった下半身を先程以上の触手に絡みつかれ、悲鳴を上げる暇もなかった。
器用に触手が手術室へと繋がる扉を閉めるのが見えたがそれもすぐ、顔面へと伸びてくる触手に視界を奪われ見えなくなる。
「……っ、は、ぁ……ッ、ぁ゛……っ、ん、……ッ!」
じゅぷ、ぐちゅ、ぬぷと、腹の中で触手が出入りする度に粘膜同士が擦れる。俺を喜ばせようとしてるのだろう、俺が反応する度にそこばかり集中的に何本もの触手に弄られるせいで何度も絶頂を迎える羽目になった。
普段ならば恐らく耐えられなかっただろう絶頂の回数だが、毒が全身に回りきっているようだ。肛門を広げて前立腺を潰され、性器を扱かれ、尿道口を細い針のような触手で内側から犯され、全身の性感帯という性感帯をしゃぶり尽くされる度に重ねがけされる快感に脳は麻痺していき、更に強い刺激を求めるように作り変えられていく。
巨大な触手生物の上、クッションソファーのようにしがみついたままどこが口かも分からない生き物と確かに俺はキスをしていた。
優しい。皆構ってほしいだけなのだと分かっていたからこそ、順番待ちするように靴下を脱がそうとしてくる触手をそっと握る。よしよしと頭を撫でるように愛撫すれば、その先端から滲む分泌液が指に絡んだ。
「っ、ん、う、いいこ……っ、ちゃんと待ってくれて……っ、ん、……ッほら、いいよ、俺の身体でよかったら……っ」
薄暗い密室の中、ぬちぬちと濡れた水音だけが響く。触手に対して一種の愛しさが芽生え、胸の奥で肥大していくのは触手に塗りこまれた毒が関係してるのだろうか。
くんずほぐれつしている間に大きく乱れたスーツの下、赤ちゃんみたいに胸に群がってくる触手に抱きかかえられたまま俺は全身を犯され続けていた。
「は、ぁ……っ、ん、キス? ……もっと? ……いいよ、っほら、……ッん、う……」
大きな触手の塊が顔に近付いて来て、そのまま細い足がびっしりついた触手が口の中、喉の奥まで入ってくる。感じたことのない、奥深くまで異物で犯され、細かく柔らかい突起で粘膜を摩擦される感触に浸っていたときだ。
「ぅ゛――」
舌の上で咥えていたその触手の無数の突起からミルクのように甘い液体がびゅる、と溢れ出した。精液とか違う、さらりとした液体の量は多く、呆気なく許容量を超えた咥内からはごぼりとミルクが溢れ出した。
「ん゛、げほ……ッ!」
口の中のそれから口を外したが、射精のような行為は止まらなかった。そのまま顔面から胸元まで白濁液でたっぷりと汚されてしまう。
練乳でデコレーションされたみたいに汚れた身体に更に子供サイズの触手たちが群がり、ちゅうちゅうと乳首や首筋、唇まで吸い付いてくるのだ。
「は……っ、ん、む……ッ」
手加減してくれてるのだろうが、それでも吸われ過ぎて赤く腫れたそこは軽く引っ張られるだけでも脳髄を蕩けさせられる。
じんじんと痺れる乳頭を吸引する触手を見つめながら、俺はただ役目を全うした。
何度も繰り返される抽挿と『遊び』のお陰で全身も思考も既にぐずぐずに溶かされていた。
そしてやってくるはずのサディークをただ待っていたのだ。
どれほどの時間が経ったのか、恐らくそんな時間は経っていないはずだ。それでも長い間触手たちと遊んでいた気がする。
扉の開く音と「良平!」という声が遠くで聞こえた気がしたが、同時に体力消耗に耐えられなかった俺の意識は遠のいたのだった。
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