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07

 ――ナハトさんとデート。  行きたい場所もやりたいこともたくさんあった。というか、まさか本当にナハトが承諾してくれるとは思わなかっただけに、いざとなると思考が溢れ出してまとまらなかった。  準備をする、と言って部屋を出たナハトはすぐに戻ってきた。 「……っ! な、ナハトさん……」 「……なに、じろじろ見るなよ」 「あ、いえ……」  ――私服姿、なのだろう。普段とは見慣れない外着のナハトを前に俺は言葉に詰まる。  年相応、それでもナハトらしい全身黒ずくめの私服を見て、思わず頬が緩んだ。 「何笑ってんの」 「ナハトさんって、何着ても似合いますね」 「……それ、バカにしてる?」 「ち、違います……っ! 褒めてます!」 「ま、別にどっちでもいいけど。服とか……」  そうそっぽ向くナハト。普段のスーツから身体のラインが強調されるデザインだからか、普段よりもラフなナハトの服装見てるとなんだかまた緊張してきた。 「あ、そういえば仮面……」 「するわけないでしょ。そんなの、自分から殺してくださいって言ってるようなものじゃん」  サラリと応えるナハトに、そうか、と納得した。確かに、職業柄人の恨みを買いやすいナハトだ。  というか、そうなるとますますナハトを外に連れ出すべきではなかったのではないかと後悔してきた。一人頭を抱える俺を見て、ナハトはうんざりしたように息を吐く。 「あんた、また余計なこと考えてるだろ」 「う、えと……」 「言っとくけど、多少のリスクヘッジはできてる。人のことで悩む暇あるならさっさとめかし込んできたら?」  そうケツを叩かれ、「ひうっ」と飛び上がりそうになる。  ナハトさんは強い。そりゃそうだ。俺と年齢はそう変わらないはずなのに、俺なんかよりもたくさんの修羅場を潜り抜けた人だ。  ナハトのことを信じよう。そう決意し、俺はナハトに急かされるまま慌てて出かける準備をした。  それから、俺はナハトとともに社員寮を出た。  部屋を出る前に予めいくつかの話をした。  外では別に名前は呼んでもいいということ。それから、仕事の話は今回はなしだということ。  ――今日はボスの実弟と護衛ではなく、個人としての良平とナハトの『デート』だ。  ナハトの言葉を頭の中で反芻しては、まだ心臓がトクトクと脈打っていた。そして隣にはナハトがいる。  手を繋ぎたいが、流石に会社にいる間はやめておいた方がいいだろう。でも、つなぎたいな……。  なんてチラチラ見てると、ナハトと目があった。 「それで、どこ行くの」 「あ、は、はい! ……先に朝ご飯は如何でしょうか」 「俺は別に腹減ってないけど……」  とナハトが言いかけた瞬間、きゅるると俺のお腹が悲鳴をあげる。言葉を止めたナハトは咄嗟に顔を逸す。  は、恥ずかしい……。慌てて頬とお腹を抑えれば、小さく吹き出したナハト。 「な、ナハトさん……?」 「ふ……っ、本当、最初から腹減ったっていえよ、それ」 「す、すみません……」 「まあいいけど。……俺、全然そういうスポットとかわかんないから。お前に任せるよ」 「……っ! は、はい! お任せ下さい! 営業部でこの辺の土地勘は培ってきましたので……っ!」 「……ふーん」  あれ、せっかくナハトさんの機嫌がよくなったと思ったら、また少し声が低くなった。  俺にエスコートされるのはやっぱりあまり嬉しくないのだろうか……?  なんて思いながらも、それを払拭するため俺は取り敢えずナハトと行きたかったお店へと向かうことにした。  ――ダウンタウン、ビジネス街。  本社を後にし、大通りを歩いていく。  ヴィランとしてのナハトは勿論だが、素のナハトもナハトでやはり華がある。どれだけ地味な格好をしていようが、通り過ぎる人間が皆俺の隣にいるナハトを見ているのでなんだか誇らしげな気持ちになった。  けれど、ナハトは無論目立つのを良しとしない人だ。仏頂面のまま俺の服の裾を掴んで歩くナハトに、想像していたデートよりもどちらかというと犬の散歩してる気分になった。犬は俺の方だ。 「ねえ、まだつかないの」 「ま、待ってください……もう少しで……」 「……道に迷ってない?」 「迷ってない……と思います」 「もういいからマップ開けマップ。ほら、どの店?」 「う、うぅ~……」 「泣くな、余計腹減るだろ」  ――というわけで、格好いいところを見せるつもりがいつもの流れになり、ナハトにリードを引っ張られる形になる。  そんなこんなありつつ、なんとか喫茶店に辿り着いた俺とナハトは朝食を取ることにした。  ナハトは個室がないと店に長居したがらないということは知ってたので予め調べていたのだ。そしてメニューのラインナップはジャンクもジャンク、身体に悪そうな派手な色のバンズと豊富すぎる材料からオリジナルバーガーを注文できるというバーガーショップだ。おまけにサイドメニューも健康を無視したようなナハト好みのジャンクフードが揃っている。 「まあ、雰囲気は悪くないね」といいつつ、いつもよりもモリモリとバーガーにかぶりついてるナハトを見て、俺は自然と笑顔になった。  それから朝食を済ませ、店を出た俺達。  これからどこへ行くのかという話をしようとした矢先だった。 「――あれ? 良平?」  ――大通り。向かい側からやってくるビジネススーツの男にハッとした。 「も、望眼さん……?」  そう恐る恐る名前を呼んだ時、隣にいたナハトの顔が一瞬で無表情になるを俺は見てしまった。

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