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 ナハトさんの気が変わる前に、いざわんにゃんランドへ向かう。  人気スポットというだけあって、至るところにわんにゃんランドへと誘う看板があったお陰で道中道に迷うことはなかった。  そして見つけた、写真に載っていたファンシーな犬と猫のマスコットが並んだ店の前。『わんにゃんランド』とでかでかと描かれた看板。  元々通り自体が人気のデートスポットということもあってか、店先に並んでるのは二人組のカップルやグループが多い。  わんにゃんランドは、地上にあった所謂猫カフェ犬カフェとペットショップが複合した施設だった。想像してよりもランド内から聞こえてくる獣のような遠吠えがやや気になったものの、他は写真で見るよりも遥かに可愛い。 「やっぱり、すごく並んでますね……」 「ダウンタウンはただでさえ娯楽施設が少ないからね。これくらいは想定内」  やはり嫌かな、とちらりとナハトを見ようとしたとき、「何してんの」とナハトと目があった。 「これ以上待たされないよう、並ぶんならさっさと並ぶよ」 「……! は、はい!」  ここへ来るまでにナハトの気が変わっていたらどうしようかと心配していたが、どうやら杞憂だったようだ。慌てて俺はナハトとともに、列の最後尾へと並んだ。  それから数十分後、ようやく俺達の番がやってきた。  犬や猫に扮したスタッフに誘導されるようにやってきた店内、軽い説明を受け、いざわんにゃんたちがいるメインのカフェスペースへと案内されたのだが……。 「グルルルル……」 「フシュー……ッ!」  ファンシーでカラフルな外装とは掛け離れた、何故か牢獄スタイルのカフェ内装。そしてその壁には頑丈な檻に囲まれ、ぶっとい首輪をされた巨大なわんちゃんとねこちゃん(最早虎にすら見える)、足元で威嚇してくる子供のわんにゃんたちに俺は想像とのギャップにただ固まっていた。 「……あのキメラ犬、毛並みだけじゃなくて顎の筋肉も鍛えられていて悪くないね」 「な、ナハトさんっ! ナハトさん、猫さんが! いててて!」  『未だ力のない子供わんにゃんとのふれあい』という名目で開放されたカフェスペースだったはずだが、確かに攻撃してこないとは言ってない。脛にガリガリガリ!と噛み付いてくる子猫に負けそうになる俺。対するナハトは、店に入る前まではあんなに死んだ顔をしていたのに、戦闘特化の改造されたキメラ犬を見た途端目を輝かせていた。  いや、ナハトさんが喜んでるのならそれでいい、それでいいのだけど。俺の裾はダメージ加工されていってるけど。 「助けてください、ナハトさん」と縋れば、ナハトはそのまま俺の脛にまとわりついてきていた子猫をひょいと抱きかかえる。 「へえ、この中から良平を狙って攻撃するなんて将来有望だな」 「いてて、そ、そういうことなんですか……?!」 「そういうことだ。こんな地下で生まれた動物なんだから、生き残ってるやつらは弱肉強食を叩き込まれてる」  言いながら、抱えていた猫の顎の下をうりうりと撫でるナハト。先程まで俺に牙を剥き出しにしていた獰猛子猫は見る影もなく「うにゃん」と愛らしく鳴いてた。なんだこの差は。 「うう、わんにゃんって言うものだからもっとふわふわしてかわいい天国のような場所かと……。確かにこの猫さんも愛らしいですけど……いたた!」  油断してる今ならば、とナハトが抱いた猫を撫でようと手を伸ばした瞬間、光の速さで引っかかれる。流石ヴィラン猫だ。 「な、なんでナハトさんには懐いてるんですか……?! お二方が並んでるのは画になりますけども……!」 「言っただろ? 獣は生きていくための知恵を身につけてる。己より強い者には逆らわないんだよ、賢いからね」 「な、なるほど……」  取り敢えず大人しくナハトさんと子猫の写真だけ収めておくことにする。端末片手に二人の写真を収めつつ、俺。そしてその足元にはいつの間にかに足元にわらわらと子猫や子犬たちが集まり、集団で攻撃をしてきた。  これも生きるための知恵なのか。  この店内で一番戦闘力が弱いと認定されてても納得してしまわざる得ないのが悲しい。  落ち込む俺を見兼ねたのか、抱えていた子猫を下ろしたナハトはそのまま座り込み、小さな獣たちに目を合わせる。 「……ほら、お前ら。良平に攻撃するなよ。こいつは雑魚だけど俺の大事な人だからな。……解ったか?」 「ニャイ……」 「ワフ……」  なんか返事してるやついないか?と思ったが、そんなことよりもさらりと出てきたナハトの言葉に頬がじんわりと熱くなった。 「だ、大事な人……」  そう思わず復唱すれば、ナハトも気付いたらしい。ハッとしたナハトだったが、そのままむくれたような顔をして俺を見る。 「……別に、間違ってはないでしょ」  ――確かに、俺はナハトのボスの弟だ。  けれど、その言葉の意味はそれだけじゃないと思っていいのだろうか。自惚れではない……よな。  ナハトと一緒にいると、どんどん自分が強欲になっていくようで戸惑ってしまう。 「そ、そうですね……」 「……」  ……な、なんだ、この空気は。  相変わらず獣の唸り声で満たされた空間内、俺とナハトの周りにだけなんだか砂糖を溶かしたような甘ったるい空気が流れていた。  なにか、なにか話題を探さなきゃ。  そう思いながら辺りを見渡したとき、不意に手の甲にナハトの手が触れた。そのまま手を握られ、驚いてナハトを見上げたとき。 「……っ、な、ナハトさ……」  ナハトは俺を抱き寄せた。そして、テーブルの上にあった電子ボードを手にしたナハトはそのまま俺の前に翳す。次の瞬間、そのボードに何かがぶつかり弾き返された。 「え――」 「息を吸うな」  そうナハトが俺の口を塞いだとき、辺りに煙幕が広がった。一斉に吠えだす犬猫たちに、店内にいた客、そしてスタッフたちが騒然とする。  ――一瞬、何が起きたのかわからなかった。けれど、ナハトに助けられたことだけはわかった。  そして、これはイベントでもなんでもなく、『襲撃』なのだと。

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