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「二人とも~、おかえりなさーい。んじゃ、早速検査しようねえ」  転移装置を使って本社へと帰ってきた俺たちを迎えたのは、満面の笑みを浮かべたモルグだった。 「ただいま戻って参りました」と返すよりも先にあれよあれよと何やらゲートを潜らされ、いつの日か見覚えがある機械で全身の検査をされる。そしてようやく解放された俺の横、同じく検査を終えたナハトが横にやってきた。 「な、ナハトさん……俺大丈夫でしょうか」 「問題あったらゲート潜った時点で別室に連行されてるでしょ」 「そうですよね……」  確かに、ECLIPSEを脱出した時はシャワールームまでモルグに連れて行かれたことを思い出す。  それから間もなくして検査結果が出たようだ、タブレット片手にモルグが俺たちの元へとやってきた。 「二人とも、健康状態は大丈夫そうだね~。引っかかったとすれば、少し善家君が興奮状態だったってことくらいかなぁ?」 「えっ?! そ、そんな……」 「……」 「な、ナハトさん、その目やめてください……っ!」 「こいつが発情してんのはいつものことだろ。……それで、他には?」 「い、いつも……」  深堀されるより他の話題に行ってくれた方が有り難いが、それでももう少しオブラートに包んでくれたらいいのに。  恥ずかしさと否定し切れない悲しさにまごまごしていると、モルグはくすくすと笑いながらボードに目を向ける。 「ま、身体に異常なしだね。善家君がぶっかけられたっていう薬は市販の薬混ぜたら手作りできるような軽い興奮剤のようなものだよ。それも人には殆ど無害で、善家君が襲われたっていう動物たちには強制的に興奮状態にさせ、勃起・種付を促進させるっていう効果だねえ」 「ぼ、……っそ、そんなことをさせてなんの意味があるんでしょうか……」 「いるところにはいるんだよねえ、そういう人は」  ペラペラとモルグの口から飛び出してくる単語に顔がひたすら熱くなってくる。 「こいつみたいにな」とモルグを指差すナハトに「えっ?!」と思わず後ずさりをすれば、「大丈夫大丈夫」とモルグは微笑む。 「僕は仕事と私情は分別できる大人だからねえ」 「お前が言うと1ミリも響かないな」 「手厳しいなぁ。ほら、善家君が怯えてるじゃん。やめたげなよぉ~」 「こいつは警戒心がなさ過ぎるからこれくらいで丁度いいんだよ」  ナハトは俺のことをなんだと思ってるのか。俺だって危機感はある――と言いたいところだったが、道中のあれこれとナハトの冷たい目を思い出し、結果的に口を閉じることしかできなくなってしまう俺。 「犯人は愉快犯ではあるだろうけど、君を狙ったっていうのが問題視されててねえ。取り敢えず、今日はこのまま外出は控えてねえ。あと、善家君は自宅謹慎」 「お、俺ですか?」 「うん、薬の効能は一日くらいあるけど念の為ってことで明日まで大人しくしておくこと。うちの会社にはキメラの子もいるからねえ、下手に刺激させて問題起こしたくないでしょぉ?」  先程モルグから薬の効能を聞いたばかりということもあり、考えただけでさっと血の気が引く。  確かにこの会社に所属するヴィランの人たちは個性的な人たちが多い。見た目もキメラと分かるヴィランも居れば、キメラの血を引いてるが見た目はヒト型の人も居る。  モルグ曰く動物というのがどこまでの範囲かすぐに調べるのは難しいということで、応急処置を取るのが安否らしい。  俺だって人に迷惑掛けるくらいなら部屋にいた方がましだ。「分かりました」と頷けば、「偉い偉い」とモルグに頭を撫でられる。そして、すぐにナハトに振り払われていた。 「おっと、余裕ないなぁ~」 「話が終わったんならこいつは俺が連れて帰るから」 「はいはい、誰も取りませんよ~。……んじゃ、善家君。デートのお話はまた後で聞かせてねえ」 「えっ、ぁ、は、はい……っ」 「言わなくていいから、馬鹿」 「ば、馬鹿は言い過ぎです……っ!」  そして、そんな言い合いをしながらも俺はナハトに引きずられて裏の通路から自室まで連れ戻されることとなった。

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