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第15話

「……お出かけ、って」  聞き間違えかと思わず顔を上げる。花戸は俺が答えたのが嬉しかったようだ、にっこりと微笑んだまま「そうだよ」といつもよりも声をワントーン高くする。 「行き先はまだ秘密だけど、きっと君も楽しめるんじゃないかな」  妙な言い回しをする花戸に引っ掛かる。  外に出してもらえるのは願ったり叶ったりだが、なんだろうか。なにか違和感を覚えた。  それに、相手は花戸だ。この男が簡単に俺を開放するとは思えない。油断するな、と自分に言い聞かせる。 「それじゃあ、さっそくお着換えしないとね。ああそうだ、こんな時もあると思って間人君のサイズに合う服を何着か用意させてもらったよ」  言いながら一度寝室を出て行った花戸は腕に袋を抱えて戻ってきた。 「この中から好きなものを選んでね」なんて一人楽しそうに笑いながらベッドの上に服を広げていく花戸。  服など親が買ってきたものを適当に見繕っていた俺にはファッションのことなんて微塵もわからなかったが、俺が着ていた安物の服とはまるで違うということはわかった。普段花戸が着ている服となんとなく系統が似ている。  正直、ゾッとした。いつの間にこんなものを用意したのかということもだが、この男の趣味を押し付けられているこの状況にも。 「……なんでもいい」 「じゃあ俺が選んじゃおうかな。俺的にはきっとこの黒の……」 「白いやつ」 「一番端のやつでいい」それは条件反射のようなものだった。この中で一番花戸の好みの服など袖も通したくなかった。  遮る俺に怒るわけでもなく、ふっと口元を緩めた花戸は「わかった」と笑った。  ほんの一瞬、もしかしたら逆上するのではないかと覚悟していたがやつは終始いつもの穏やかな態度のままだった。  それから、俺は花戸に着替えさせられる。  手足の拘束を解かれ、やつの手によって服を着せられていくのは屈辱でしかなかったが外に出るために必死に堪えた。  そして、最後に乱れた俺の髪を手で直した花戸はこちらを除き込み、「あは」と笑う。 「良かった。俺の見立て通りだ。……君はこういう服もよく似合う」  中身はともかく、顔だけは整った花戸ならいざ知らず俺にはこういう大人っぽい服は似合わない。それよりも、動きやすいラフな格好の方がまだいい。  恐らく花戸はそんな俺の好みを分かってて言ってるのだろう。それがわかったからこそ余計腹立った。 「ああ、ちょっと待っててね。それと……これも忘れないようにしないと」  そう花戸は先程持ち出した袋の中から何かを取り出した。  ベルト状の、なにやら小さな機械が取り付けられたそれを俺の目の前に掲げた花戸はそのままそれを俺の首に回すのだ。 「……っ、な、に……」 「ああ、そんなに怯えなくていいよ。間人君は電流首輪って知ってる?」 「……は?」  その単語に嫌な予感しかしなかった。咄嗟に花戸の手を掴み、止めようとするが花戸はそれをものともせずに俺の首に巻きつけるのだ。そして、緩まないように隙間なく締められる。喉を締め付けるそれを触れようとした瞬間、ベルトに首が締め付けられる。そして次の瞬間、強い痛みが首に走る。 「っ、……ッ!!」  一瞬、なにが起きたのかわからなかった。  ばちりと耳元から頭の中で大きな音が弾けたと思えば、いきなり全身に駆け巡る刺激に全身の筋肉が硬直する。 「はは、びっくりした? 今のは軽くだけど……もし君が逃げ出そうとしたりしたらこの首輪から電気が流れるようになってるんだ。本来なら犬の躾用らしいんだけど、人間の躾にも丁度良いみたいだね」 「……ッ、……」 「ああ、ごめんごめん。もうしないよ。今のは試しっていうか、身を以て理解した方が早いかなと思って。……君が逃げ出そうなんてしなかったらこれを操作することはないからね」  目を見開いたまま動けなくなる俺。そんな俺を見下ろしたまま、花戸は小さなリモコンを指先で弄んだ。どうやらそれで電流を流しているようだ。  花戸は「痛かったね」と俺の頭を撫で、そのまま首輪を隠すように襟を詰める。首に小型の爆弾を取り付けられたようなものだ。おまけにこの首輪、電流だけではなく俺が引っ張れば締まり、触れなければ少し緩むようになっているようだ。  ただで外に出してもらえるとは毛頭思わなかった。それでも、これでは――。 「それじゃあ、そろそろ行こうか」  そんな俺の気なんて知らず、花戸は俺の手を握るのだ。  ……せめて、この男からリモコンを奪うことができれば。  そんなことを考えながら、未だヒリつく首に触れた。それだけで反応する首輪に、俺は慌てて指を離した。  クソが、と口の中で吐き出すのが精一杯の抵抗だった。

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