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06

 ひと悶着はあったものの、一先ず奈都は仲吉に対する警戒を解いてくれたようだ。  仲吉の前に姿を現したらしい奈都に、仲吉は「増えた!」と驚いていた。  そんな仲吉を前に、奈都はにっと笑みを浮かべて見せる。 「僕は奈都って言います。……よろしくお願いしますね」  そして、握手を求めるように仲吉の前へと手を差し伸べる奈都だったが、対する仲吉は反応しない。  いや、気づいていないというわけではない。寧ろ、現れた奈都の顔を見詰めたまま何かを考え込んでいるようだった。  どうしたのだろうか。不審に思い、「仲吉?」と声を掛けたときだった。ハッとした仲吉は慌てて差し出された奈都の手を握り返す。 「ああ、悪い。――よろしくな、奈都」  そう笑う仲吉。心配そうにしていた奈都も安心したようだ。 「はい」と小さく微笑んだ。  そしてそのまま奈都と合流した俺達は改めて応接室へと移動していた。  どうやら奈都は自室に戻るつもりだったらしいが、客人である仲吉に興味を抱いたようだ。俺、仲吉、花鶏、南波、そして奈都というなかなか奇妙な組み合わせで同席することとなったのだが――。  分かっていたことだが、仲吉は大人しくじっとお座りできるような人間ではない。  応接室の絵画に始まり、棚の中や置物にまで興味津々となっていた。そして、俺は仲吉から目を離さないように見守る羽目になる。  その間、南波は花鶏が連れてくれるらしい。  その配慮はできるのに何故、人間に首輪を嵌めて生活させようとするのだろうか。なんてことは考えてはいけない。 「奈都君、双子たちはいないんですか」 「ああ、藤也君たちならさっきどっかに行ってましたよ。多分すぐ戻ってくるかと……」 「まったく、肝心なときにいないんですから」  寧ろ、幸喜については居なくて良かったと言っても過言ではないがな。  後方、ソファーに腰を下ろしたまま繰り広げられる二人の会話を聞き流しながらそんなことを考えた。  けれど、藤也には仲吉を紹介したい気持ちはあった。  元はといえば、あいつが迷っていた俺の背中を押してくれたんだ。  仲吉にも改めて紹介したい気持ちはあったが、問題は藤也の性格だ。  ――絶対、仲吉と相性悪そうだよな。 「へえ、まだいるんですね。何人いるんですか?」 「紹介できるのはここにいる者と、あと二人ですね。とはいえ、少々気まぐれで今どこにいるのやら」 「へー、楽しみだなぁ」 「あのな……言っておくが、皆が皆花鶏さんみたいな人って思うなよ。特に、あいつは……」  幸喜には特に気を付けろ、と言い掛けたとき。 「あいつ?」と仲吉の目がこちらを向いた。場違いなほどキラキラとした、期待と興奮に満ち溢れた目である。  しまった、こいつの性格を忘れてた。  こいつは寧ろ自分から危険なことに興味津々になって首突っ込んでいく人間だ。 「……っ、なんでもねえよ」 「嘘だろ、今なんか言い掛けてただろ!」 「なんもねえって」  なんて押し問答する俺と仲吉だったが、花鶏たちの生暖かな視線を感じ、俺は慌てて咳払いをする。 「いいから、お前は今の内にやりたいことやっとけ。……こんなこと、なかなかないんだから」  そう、仲吉の気を逸らさせようとしたときだった。 「あ、そうだった」と仲吉は思い出したように声を上げた。  そして、ソファーで寛いでいた花鶏を振り返る。 「あとりんさん、他の部屋も見て回っていいですか?」 「ええ、構いませんが……でしたら私もついて行きましょうか」 「んや、準一が来てくれるみたいなんで大丈夫です」  何を言い出すかと思いきや、本当に何を言い出すのだ。  思わず「は?」と仲吉の方を見るが、あいつはそれを無視して「じゃ、行こうぜ準一」など言いながら肩を組んでくるのだ。 「ちょ、おい……なに勝手に決めて……!」 「準一さんが一緒なら安心ですね。ならば、ここは水入らずということで」  なんでこういうときだけ花鶏も聞き分けがいいのだろうか。  そんなツッコミは野暮なのか。それとも俺が間違っているのか。 「すみません、じゃあちょっと失礼します」  そう、ソファーに腰を掛けた花鶏たちに向かってペコリと頭を下げる仲吉。 「ええ、お気を付けて」と手を振り直す花鶏、そして釣られて会釈を返す奈都とずっと不貞腐れたような顔をした南波に別れを告げ、俺は仲吉とともに廊下へと出た。  ――屋敷内廊下。  応接室を出て、仲吉はそのままなにも言わずに歩き出す。 「おい、勝手に動き回るなって……せめて……」  俺に案内させろ、と言いかけたときだった。  辺りに人気がないことを確認した仲吉は「なあ」と急にこちらを振り返るのだ。 「……なんだよ」 「今も南波さんっていう人いんの?」 「今は……いねえけど。お前と居る間は花鶏さんが預かってくれるって」 「なんだそれ、犬みてえ」  そう笑うのも束の間、「なら丁度いいや」と仲吉はこちらへと歩んでくる。 「どうかしたのか」 「……さっきの奈都、だっけ? あいつさあ、準一見覚えないか?」  そう、声のトーンを落とす仲吉。  仲吉の言葉の意味が一瞬分からなかった。  奈都の話をされると思っていなかっただけに、余計。

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