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「あーまた雨かよ、つまんなーい! つーまーんーなーいー!」 「……」 「なあなあ藤也なんか面白いことしろよー、あ、藤也の顔おもしれー!」 「…………」 「なんか見飽きてきたなあ、全部同じに見えてくんだよ。な、つーか藤也これどっち派?」 「黒髪」 「お前、また黒髪かよ! お前本当黒髪好きだよな~。つかお前髪しか見てないだろ乳見ろよ乳……あでっ!」 「……下品、やめろ」  場所は変わって館内、応接室。  花鶏に言われた通りそのまま大人しく洋館へと戻ってきた俺たちを迎えたのはいつも以上に騒がしい笑い声だった。  応接室のテーブルの上、なにやら雑誌を広げて盛り上がっているようだが……ちょっと待て。なんでまだ人のエロ本みてんだよ、嫌がらせか。 「おい、お前ら……っ! 何勝手に人の部屋から持ち出して……ッ!」 「あれ、準一じゃ~ん! 帰ってくんの遅いって、なあなあ聞いてくれよ~」  慌てて二人の間に割り入って読むのを止めようとした矢先だった。 「だから黙れって言ってんだろ」と、立ち上がろうとしていた幸喜のフードを思いっきり引っ張る藤也。ぎゅっと首元が締まり、潰れたカエルみたいな声が幸喜の口から漏れる。 「んぎゅ! って、おい藤也お前なに慌ててんだよ、黒髪の可愛い子がきて緊張してんのか~?」 「……お前のそういうとこ、本当にムカつく」 「お、おい……喧嘩すんなよ……っ!」  せめてその本を閉じてからやってくれ。  どこかで見た流れに嫌な予感がし、慌てて仲裁に入ったがどうやらそれがまずかったらしい。 「……こいつが勝手に」 「やだなー俺たち仲良しなんだから喧嘩するわけねーじゃん! なー藤也!」 「一緒にしないで」 「あはははっ! お~よちよち、反抗期藤也君はかわいいでちねえ!」 「……殺す」  いつもに増して機嫌が悪い藤也と、いつもに増して笑い声がうるさい幸喜。  常日頃から両極端な双子だと思っていたが、まさかここまでとは。  仲良くしろよ、ということも出来ずどう止めればいいのか頭を抱えていたときだった。  一頻り笑って満足したようだ、「そーいや準一」と幸喜がこちらを振り返る。 「仲吉とかいうやつは? 一緒じゃねえの?」 「……はぐれた」 「はぐれた! また迷子になったのかよ準一! 本当おっちょこちょいだよな~」 「言っておくけど、俺が迷子になったわけじゃないからな」 「花鶏さんが連れ戻してくるってよ」と続ければ、そんな俺の言葉から何かを察したようだ。 「なんかあったの」とこちらに近付いてくる藤也。俺はどう答えるべきか迷った。  奈都と花鶏のことを説明するにはまず俺達がやろうとしていたことの説明をしなくてらならない。 「……なんかっていうか、まあ色々な」  幸喜はさておき、心配してくれているであろう藤也には説明した方がいいだろう。  幸喜にまで話す必要があるのかわからないが、変に藤也と二人きりになろうとして絡まれても厄介だ。  俺は藤也と幸喜、二人にまとめて一連の流れを説明することにした。 「へえ、奈都がなぁ。てかまたあいつなんだ、奈都も毎回毎回懲りねーなあ」 「毎回?」 「俺たちの中でも一番外に未練があんのはあいつだからな~、いい加減諦めたら楽になれるってのに」  他人事のように笑う幸喜に、なんだか俺は聞いてはいけないような話を聞いた気になっていた。  確かに、奈都と比べるとこの双子や南波などは外に出ようとする素振りすらも見せない。寧ろここで暮らしを満喫してるようではあった。 「んで仲吉は奈都のところいっちゃったわけか。そりゃ寂しいなあ、せっかく遊ぼうと思ったのに奈都に横取りされちゃうなんてなあ!」 「んじゃ、一人ぼっちの準一君は俺が相手してやるか」と抱きついてくる幸喜にぎょっとする。 「いらねぇよ」と慌てて離れようとしたが、相変わらずその力は強い。  ってか、しつこい。いつもも鬱陶しさはあるが、今日はその倍はある。 「遠慮すんなって~」と言いながら顔を寄せ、あろうことか接吻してこようとする幸喜にぎょっとするも束の間、甘ったるいアルコールの匂いにはっとする。  ……アルコール? 「ちょ、待て、幸喜お前……っ」  んーと唇を尖らせキスを迫ってくる幸喜の首根っこを掴み引き剥がした俺は、ふと応接室にあるテーブルの下に目を向ける。そしてその足元に転がる複数の空瓶を見つけ、はっとした。  あれは、確か南波が仲吉に頼んで持たせてきた甘酒の瓶だ。なんでこんなところにあるのかという些細な疑問の答えはすぐに出る。 「お前、まさかあれ飲んだのか……?」  そう、恐る恐るテーブル下の空き瓶を指差せば幸喜は満面の笑みを浮かべてくれる。 「ああ? ああ、それだろ? なんかすっげえどろどろしたジュース! うまかったよ!」 「お前、あれはジュースじゃなくて……いや、ジュースなのか……?」 「って、テメェそれ俺のじゃねえか!!」  先程まで大人しいと思いきや、南波が勢いよく飛んできた。自分の楽しみにとっておいた仲吉からの土産を飲み荒らされたことにようやく気付いたようだ。 「えー、南波さんの? でも名前書いてなかったしな~、あ、でもちゃんとまだたくさん残ってるから!」 「っざけんな、テメェ……ッ!」 「ってことでこれ南波さん用~」  そう、言うな否や甘酒の瓶ごと南波の顔面に投げつける幸喜に思わず目を瞑った。  クリーンヒット。  ゴッ、と。鈍い音がした。  なにを思ったのか南波の顔面にその瓶を投げ付けた幸喜は見事南波の鼻柱に命中させ、そし南波はそのままひっくり返った。  次の瞬間。 「ってんめぇええ!」 「な、南波さん……」  耳を劈くほどの怒声とともに南波は起き上がった。

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