99 / 107
04
屋敷外。
カメラを手に奈都と森へ向かうことになったわけだが。
「天気がよくて良かったですね」
「ああ、そうだな」
「ここは星が綺麗なのでいいですよね。……空気も綺麗ですし……」
「幽霊屋敷なんてなけりゃ、もっと観光気分で来れたんだけどな」
見てみぬふりをするにはあまりにも濃すぎるあの屋敷を一瞥し、苦笑する。
いつも花鶏が手入れしてるらしい屋敷周りは荒れてない分、余計浮くのだ。
「そう言えば……準一さんはなぜこちらの方へ?」
「ああ、言ってなかったか。……仲吉だよ、あいつが幽霊屋敷に行きたいって言い出して、それで肝試しに来たんだよ」
「お二人で、ですか?」
「まあな。あいつは思い付きで突っ走るから……そんで、肝試しのことも前日に聞かされて次の日朝から車走らせてって感じでな」
それももう、遠く昔のことのように思えてしまう。
仲吉に振り回される日々を思い出し、死んだ今でも尚振り回されている自分には苦笑いしかでないが。
そんな俺を見て、奈都は少しだけ考え込んでいた。
そして、
「……ずっと思ってたんですが……お二人とも仲、よろしいんですね」
「え?」
奈都の言葉に、つい素っ頓狂な声を漏らしてしまう。
仲がよろしい。
まさかそんな風に奈都に思われているとは思ってなかった分、なんか変にキョドってしまう。
「や、でも結構喧嘩とかするぞ?」
「仲が良いからじゃありませんか?……準一さんが仲吉さんのことを話す時楽しそうで、正直、羨ましいです」
「羨ましい?」
「僕、こんなだから仲が良い男友達とかいなかったので……」
「そ……それは……」
確かに、男友達とギャーギャー騒いで盛り上がるようなタイプには思えない。
なんと声を掛ければいいのか分からず、慌てて咳払いをして紛らわす俺。
「でも、まあ今からでも遅くないだろ」
「……準一さん」
なんて、当たり障りのないことしかいえない自分の口が憎たらしい。
仲吉ならなんというのだろうか。きっと、「俺がいるだろ」とかサラッと言ってのけるのだろう。
もっと気の利くこと言えばよかったと後になって後悔していると、不意に奈都が笑う気配がして。
「もっと早く、準一さんと出会えたらよかったなぁ……」
「奈都……」
寂しそうに笑う奈都に、今度こそ何も言えなくなる。もっと早く、ここじゃない何処かで、生きている内に。暗にそう言っているのだろう。
今更取り返しがつかないと分かっているだけに、遣る瀬無くなってしまう。
「あ、す、すみません……なんか、湿っぽくなっちゃって……」
「いや、いいよ。気にすんな」
よほど酷い顔をしていたのか、気にする奈都に慌てて俺は首を横に振った。
「ありがとうございます」と申し訳なさそうに奈都は頭を下げ、そしてまた妙な沈黙が続く。
大分、打ち解けてくれたのだろう。以前のような余所余所しさを奈都から感じることはなくなったが、その分、奈都のようなタイプの友人がいなかった俺からしてみたらどう接していいのかわからない。
それでも、奈都がこうして隣にいてくれているということは不快な思いはさせてないということだろうが……そう思いたい。
それより、そうだ、写真。
話題を変えようとして、自分の手の中で持て余していたカメラの存在を思い出す。
「なあ、奈都……」
何撮ろうか、と口を開けた時。
不意に、前方に見覚えのある風景が飛び込んできた。
「……ここって」
確か、以前奈都が墓場と呼んでいた。
周囲に比べ、どこか薄暗いそこは以前と変わらぬ有り様で。
生い茂った森の中に出来た、不自然な更地。
この下に無数の死体が埋まっていると思うと、中へ立ち入ることなど出来なくて。
「ああ、結構歩いてしまいましたね」
俺の視線の先、墓地に気付いた奈都は何事もなかったかのように墓地へと足を踏み入れる。
それを見て、俺もそっと墓地に足を踏み込んだ。
「準一さん、ここを撮るんですか?」
「そういうわけじゃねーけど……」
「そうですよね、ここを撮ったって何も……」
そう、奈都が何かを言い掛けた時だった。
俺の後方、目を向けた奈都。
「ん?あれって……」
俺の背後を指さす奈都につられ、振り返ればそこには暗闇の中でも目立つ金髪頭の後ろ姿を見つける。
あんな派手な人間、この屋敷では一人しかいない。
「……南波さん?」
「何してるんですかね、あんなところで」
更地の奥、一人立ち竦む南波。
いつも部屋に引き篭もるか幸喜たちに玩具にされているかのどちらかのイメージがあっただけに、こんなところで遭遇したことに驚きを隠せない。
声を掛けようか迷ったが、せっかくリラックスしているであろう時に変に緊張させては申し訳ない。
「……ま、あんま声掛けないほうが良さそうだな」
「そうですね……っと、準一さん、あそこに変わった花が咲いてますよ」
「まじ?」
それから、俺と奈都は再び森の散策へ戻ることにした。
以前は散歩なんて面倒なだけだと思っていたが、やることが限られている今、わりと楽しんでいる自分がいた。
ともだちにシェアしよう!