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11※

 考えろ、考えろ。ここからどうやって逃げるのかを。 「っ、ぼ、帽子屋……待て」 「今度はなんだい。私もあまり良い子ではないのだけれどね」 「……っ、ぅ、……」  押し倒されたまま、胸の上を滑る掌を掴む。僕よりも大きな手。 「き、キスを、してくれないか……」  とにかく時間を稼ぎたかった。これが悪手なのかどうか僕にももう判断つかない。けれども、この男に好き勝手体を弄られるよりかはまだ自分で主導権を握るのが懸命だ。  そう半ばヤケクソに声を漏らせば、「ああ、いいとも」と帽子屋はふっと息を漏らし、笑った。 「……っ、ん……」  ベッドが軋み、影が重なる。  存外優しい口付けに心臓の脈動が狂わされた。  ここからどうするか、それを今の内に考えなければならないというのに。  ちゅ、ちゅ、と小さな音を立て、柔らかく口付けをされるとなんだか変な気分になってくるのだ。遠い昔のことだ、まだ幼い頃、両親に抱き締められたまま慈しむようなキスをされて幸せだった日の記憶を。  ――だからつい、油断していた。 「……っ、ん、ぅ……ッ」  腿から付け根へと、伸びる手に撫でられ腰が震える。散々解されたそこを指を増やされれば、落ち着きかけていた意識がはっと蘇る。 「ふ、ぅ……っ」 「キスは好きかい、クイーン」 「っ、キス以上のことは、許していない……っ」 「君の唇は天の邪鬼だからね。だから、正直者のこちらに聞いた方が早いのさ」 「ふ、ざけ……っ、んん」 「ほら、もっとキスをしてあげよう。君の好きなキスを」  れろぉ、と長い舌で唇を割られ、上顎から喉の奥まで這わされる舌先に気を取られてる間に、股の間に立った帽子屋はそのまま僕の足を大きく開かせるのだ。  自然と顕になる形にカッと顔が熱くなり、慌てて足を閉じようとするが「駄目だよ」と拒まれる。  柔らかくなった肛門を再び揉まれ、撫でられ、それだけで下腹部はあっという間に熱が集まるのだ。 「っ、やめろ、僕は……これ以上は……っ」 「まだその演技をするつもりかい?」 「は、ぁ……ッ」  ちゅぽ、と口の中から舌を抜かれたと思えば、そのまま帽子屋は僕の腰を持ち上げるのだ。なにを、と視線を向けた時。あろうことかあの男は躊躇なく人の下腹部に顔を近づける。 「っ、な、なにしてる! お前……っ!」 「なに、随分と物ほしそうだったから、こっちにもキスをしてあげようと思ってね」 「な……」  何を言ってるんだ。こいつは。  凍りつく僕に構わず、帽子屋はそのまま人の股に鼻先を押し付けるのだ。それだけでもぞっとするのに、あの男は人の股座に鼻先を押し付けたまますうっと息を吸い込む。 「や、やめ……っ、なに、嗅ぐな……っ! 貴様……っ!!」 「はぁ……っ、相変わらず甘い匂いがする。私の求めていた芳しい匂いだ」 「貴様頭イカれているのか……っ?!」  声も裏返ってしまいそうになりながらも、必死に帽子屋の頭を押し退け、ベッドの上から逃げ出そうとするが、やつはどさくさに紛れて尻を揉む。そして次の瞬間、ぬるりとした感触が肛門に触れ、息が止まりそうになった。 「ぁ、あ……っ、ぉ、おまえ……ッ」  舌を見るのも恐ろしかった。ぐち、くちゅ、と音を立て、先程まで僕の咥内を嬲っていた舌先が肛門の入り口を掻き分け、中へと侵入してくる。 「っ、ふ、……っ、ぅ……ッ!」 「匂いだけでもなく、味も最高だ。君の体はどこもかしこ甘美で――甘く雄を誘う」  血の気が引く。それなのに顔が酷く熱い。帽子屋の髪を掴み、引き剥がそうとすればするほど舌先は更に奥まで入っては粘膜をしゃぶり尽くすように動くのだ。舌伝いに唾液を流し込まれたお陰で更に舌の滑りはよくなり、体内でぐちゃぐちゃと音を立てながら、時折それを啜る。そんな地獄のような行為を繰り返す帽子屋に僕は声をあげることもできなかった。 「っ、ぅ、や、めろ、やめろ……っ、ぼ、僕は……っ、クイーンじゃない……っ!!」 「……っ、は、いいや、それは違う。君は立派なクイーンだよ。誰よりも愛国心が強く、民を愛する、このワンダーランドの誇りだ」 「……そ、んなところでしゃべるな……っ、ぁ……っ、く、……ッ!」  気持ち悪いだけのはずなのに、妙な紅茶の作用のせいだろう。舌の動きがより鮮明に神経を伝達し、脳へと流れ込んでくる。  この状況を脱さなければならないのに、中を舌でねっとりと愛撫されるだけで頭の中がじんじんと痺れて考えていたこともとろりと蜜のように溶けてわからなくなってしまう。  ――これは、考えうる中でも僕にとって最悪の展開だった。 「ぁ、く、……ッ、ぅ……っ」  大きな蛞蝓が体内、粘膜をしゃぶりつくすような感覚がひたすら気持ち悪くて、それ以上にあの帽子屋に舐め回される事実に堪えられなかった。  逃げ出したいのに、押さえつけられた身体はびくともしない。それどころか唾液を押し流され、潤滑油代わりに更に奥へと肉壁へと塗り込むように舌を這わせ、押し進んでくる舌の感触に腰が震えた。 「ぬ、け……っ、帽子屋……っ! ぁ、う……っ!」  裏返したカエルのような格好のまま、自分よりも体格のいい男に覆い被さられて下半身をしゃぶられる。そんな悍しい体験などしたくなかった。  抵抗も無視され、執拗な愛撫の末ようやく舌が抜かれたと思いきや、今度はどろどろに濡れた肛門に指を這わされる。 「っ、や、めろ……っ! さ、さわるな……っ!」 「今宵のクイーンはそういうごっこ遊びを所望かい? 構わないとも、私はクイーンの犬だからね。お気に召すまま。――君の期待に応えられるよう善処しよう」  だめだ、まるで会話が通じない。  それどころか、とろりと唾液で濡れたその穴に三本の指を挿入されれば驚きのあまり声すらも出なかった。 「まっ、ぁ……っ、な、抜い……っ、抜け……ぇ……ッ! ひ、ぅ……ッ!」  挿入された帽子屋の指は僕の意思を無視し、難なく前立腺に直接触れてくるのだ。すり、と濡れそぼった凝りを優しくねっとりと撫でられればそれだけでじんわりと腹の奥に熱が広がる。 「ぁ、や……っ、ん、く……ッ!」 「ああ、クイーン。可愛い声をもっと聞かせてくれないか」 「ん、ぅ……っ、ふ、ぅ……ッ!」  ふざけるな、と言いたいのに、口を開けば出したくもない声が出てしまいそうで耐えられなかった。濡れた音を立てながらも数本の指で前立腺を揉まれ、くるくると撫でられる。それだけで恐ろしいほどに全身の熱は増していくようだった。 「は、……っ、く、ぅ……ッ!」  帽子屋の腕の中、必死に快感を逃そうとベッドの上で藻掻く身体を抱き竦められたまま更に脚を開かされる。みっともなく開脚されられたまま帽子屋の無駄に長い脚で固定されたまま剥き出しになった下半身、突き立てられる数本の指にねっとりと前立腺周辺を撫でられ、もう片方の手で胸の先端部を柔らかく刺激されるのだ。 「ゃ、ぁ、も、……っ、やめ、……ッ、帽子屋……っ、ん、ぅ……っ!」 「そう言う割に、腰が揺れているじゃないか」 「っ、は……っ、ち、がう、これは、……ぁ゛……ッ! う、ひ……っ!」 「こんなに濡らしていやらしいクイーンだ。ますます私好みだよ」 「う、うぅ……っ!!」  頭を擡げた性器の先端から滴り落ちる先走りに舌を這わせ、帽子屋はそのまま裏筋から亀頭まで舐めあげていく。薄い唇で亀頭に軽く口付けをされただけでも耐え難いほどの刺激を感じたというのに、帽子屋はそれだけに留まらず汁を垂らす窪んだその尿道口に舌を這わせ、体液を啜るのだ。 「っ、う、ぁ……あ……ッ!」 「クイーン、君の身体はどこも美味だね。……っ、は、こんな身体を独り占めできるとは光栄だよ」  そんな許可をした覚えはない、という言葉は尿道口を穿る舌によって掻き消される。内側と外側を同時に責め立てられ、絡みつくように亀頭を舐る帽子屋の舌の熱に呑まれそうになった。  あまりの快楽に恐怖すら覚えた。  逃げることもできず、ずるりと帽子屋の咥内へとどんどん性器を呑まれていく。その度に「ぁ、あ」と出したくもない声が喉から溢れ、全身を包み込まれるような熱にとろけそうになって、怖くてただ震えた。 「や、めろ、……っ、いやだ、それ……っ! そんな、ところ……っ!」 「ん、ふ……ッ、」 「ぅ、あ……っ、ひ……ッ!!」  帽子屋の喉で唾液と先走りは絡み合い、長い舌がそのまま性器に絡みつくのだ。人間の弱点である場所を同時に責め立てられ、我慢などできるはずもなかった。前立腺への激しい愛撫に呆気なく決壊し、我慢の糸が切れたように帽子屋の喉に吐精する。帽子屋はそれに驚くわけでもなく、寧ろ喉の奥まで開き更に僕の性器から精液を吸いだそうと唇を窄め、先端を執拗に吸い上げた。 「ふ、ぅ゛……っ!」  耳を塞ぎたくなるような下品な音を立て、射精直後の性器をそのまま執拗に愛撫されれば性器は休む暇もなくあっという間に芯を持つのだ。咥内に残った精液を喉の奥へと流し込んだ帽子屋は、最後に尿道口に残った精液のカスをぢゅっと音を立てて吸い出し、それから僕の性器から口を離す。  唾液やら体液でぬらぬらと光る性器を一瞥し、そのままゆっくりと帽子屋は僕の方に目を向けた。切れ長な目が、既に泣きそうになっていた僕を捕らえてゆっくりと細められる。帽子屋は微笑みながら、目尻に溜まった涙を舐めとるのだ。 「ぃ、や……ッ」 「……ああ、美味だね」 「帽子屋……っ、ん、ぅ……ッ!」  ――人の性器を咥え、精液を飲んだ唇で僕に口付けをするなんて。  頬に手を添えられたまま、唇を啄む帽子屋は再び中に挿入させていた指を動かし始めるのだ。  絶頂の余韻もまだ色濃く残った身体に、その刺激はあまりにも強すぎた。逃げることもできず、声を押し殺そうとしても舌でこじ開けられ、強制的に開口された喉の奥から「んぅっ」と声が漏れる。  小刻みに痙攣する腰を掴まれたまま、更に前立腺を集中的に狙われ中を柔らかく愛撫されればあっという間に二度目の絶頂を迎えた。ぴゅっと漏れる精液は薄く、量も先程よりも少ないはずだ。帽子屋は小さく微笑み、そしてようやく僕の中から指を引き抜いたのだ。 「っ、は……ぁ……ッ」 「随分と早かったじゃないか、クイーン。……おや、何を寝ているんだい?」 「は、ん……ぅ……っ」  連続で強制的に射精に追い込まれ、全身は疲弊しきっていた。抵抗することも忘れ、ついベッドに倒れ込めば、帽子屋はそのまま僕の腿を撫でるのだ。ねっとりと、膝の上から腿の付け根を握るように這わされる手のひらにまで「んっ」と声が漏れそうになる。  それから、「やめろ」となけなしの力で手を振り払おうとするが、帽子屋はそんな抵抗をいとともせずに僕の下腹部に再び手を這わせるのだ。 「っ、ぁ、や、も……っ、まだ……っ!」 「まだ? 面白いことを言う。十分、お膳立ては整ったはずだ」 「ん、ぅ……っ!」  散々舌と指で愛撫され、まだ閉じきっていない肛門を柔らかく捲り上げる帽子屋に息を飲む。  そのまま擽るように肛門周辺の盛り上がった肉を揉まれ、下半身が大きく震えた。 「帽子屋……っ」 「こういうときは、ハッターと呼んでくれと何度もお願いしたはずだが……我らがクイーンは強情だ」  ベッドが小さく揺れ、帽子屋は開いたままの僕の股の間に膝立ちになる。そして見たくもないものが視界に入った。はち切れんばかりに膨れ上がった下半身、布を押し上げるほどくっきりと主張する男性器に思わず顔を逸す。  が、すぐに帽子屋に顎を捉えられ、正面を向かされた。 「――っ、な、ァ」  そして鼻先に当たるほどの至近距離に迫る帽子屋の下半身に目を見開く。血の気が引いた。 「目を逸らさないでくれ、クイーン。……君のおかげでこうなったんだよ、ロゼッタ」 「っ、ふざ、けるな、お前は……っ、んむっ!」  言い終わるよりも先に、柔らかく後頭部に回された手に頭を掴まれた。  そして次の瞬間、鼻先から唇に押し付けられる性器の膨らみに窒息しそうになる。 「……っ、ロゼッタ、私のことも愛してはくれないか」  ――この男。  恍惚と目を細め、息を漏らす目の前の男に僕は頭に血が昇っていくのを覚えた。

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