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12※
――ふざけるな。
頭に血が昇っていくのがわかった。
それでも、僕がそう口にするよりも先に、唇に押し当てられた亀頭がぐっと咥内へと入ってこようとするのがわかって口を開くことはできなかった。
「……っ、クイーン、そんなに拒まないでくれ」
「ん、……っぅ……」
「そんなに私を虐めるのが楽しいのかい? ……そうかい、君が楽しのならば本望ではあるが――」
言いかけて、唇に口紅でも塗るみたいに先走りを塗りつけられ、血の気が引いた。顔を背けようにも、華奢な指はがっちりと僕の顎を捉えて離してくれない。
口呼吸ができない代わりに鼻息が荒くなり、濃厚なその匂いに具合が悪くなってくる。
クイーン、と何度も強請るようにカウパーのリップを施され、そのまま頬を撫でるように横髪を耳にかき上げられた。そのままくすぐるように耳の穴に入ってくる帽子屋の指に驚き、「ふ、」と思わず小さく唇が開いた瞬間、僅かに開いたその隙間を縫うようにして亀頭はぬぷ、と唇を割って咥内へと侵入してくる。
「……っ、ふ、ぅ……ッ!」
奥歯を噛み締め、必死に拒もうとしたつもりが、一度咥えさせられたその性器が邪魔で顎までも無理やり開かされてしまった。
はあ、と心地よさそうに息を漏らし、帽子屋はそのまま僕の舌の感触を味わうようにゆっくりと奥まで侵入してくる。
鼻呼吸でも耐え難いほどの雄の匂いだったが、口の中に入ってきたことにより、より一層直接粘膜に浸透していく帽子屋の味に目眩を覚えた。
「ふ、……っ、ぅ゛う……ッ!」
「見た目通り、小さな口だ。ああ、可哀想に……こんなに頬を膨らませて、本当に君は愛らしい……っ!」
「ぅ゛……ッ、ん゛ん……ッ!」
「そう、そうやって……君のその可愛い舌で私のものも可愛がってくれ」
何を言っているのかまるで理解はできない。
それでも、必死に口の中のものを押し出そうと舌を動かす度に口の中の帽子屋の性器はドクドクとより大きく脈打つばかりで。
帽子屋の股間に顔を埋めさせられるだけでも屈辱的ではあったが、あろうことかこの男は「なに、女王陛下でもあられる君に奉仕させてばかりなのも首を刎ねられ兼ねないからね」と人の腰に手を伸ばす。
「ん、む……っ?!」
先程散々舐め回され、唾液で濡れそぼった肛門の周囲を撫でられる。やめろ、と腰を揺らして帽子屋の手から逃れようとするが、やつのものを咥えながらでは思うように離れることなどできやしない。
「ふ、ぅ゛……う゛……ッ」
「君が頑張ってくれている間、私はこちらの奉仕をさせていただこうか」
――やめろ、余計なことをするな。
必死に腰を浮かせて逃げようとしたのが悪手だったようだ。そのままずぷ、と埋まる帽子屋の指の感触に呼吸が乱れる。
「ぅ、ふ……ッ」
「おや、舌が止まってるね。そんなに私の指が好きなのかい?」
「……ッ、ん、ぅ……」
「嬉しいことを言ってくれるじゃあないか。ならば、期待に応えなければならない。それがワンダーランドの国民の努めだからね」
「ふ、ぅ゛う゛ーーッ!」
こちらはなにも言っていない。寧ろやめろと念じているくらいだというのに、こいつの目と耳にはどんな風に映り、聞こえているというのか。
人の話を聞こうともせず、それよりもとんでもない解釈をしながら問答無用で追加された指が更に関節から指の付け根まで入ってくる。
「ぅ、ふ……ッ」
ただ指が入っているだけだ、男性器よりもマシだ。
そんなことよりも、こんなことをしている場合ではないのだ。一刻もこの世界から逃げなければならないというのに。
頭の中では理解していた。けれど、ぬちぬちと浅いところにある凝りを柔らかく揉まれると、それだけで脳の快感を受ける部分が勝手に刺激を受け止めようとするのだ。
「……っ、ふー……ッ、ぅ゛……ッ」
「……ふふ、ようやく気分がノッてきたみたいだね。クイーン」
「っ、う……」
さっさとこの男を満足させなければ開放されないと分かったからだ。
口の異物が邪魔で言い返せないが、代わりに目の前の男を睨めば、帽子屋はその薄い唇に笑みを浮かべる。そして、更に執拗に僕のナカをかき回すのだ。
「ふ、ぅ、んむ……っ」
何故、僕がこんなことをしなければならないのか。
何度自問したところで答えは返ってくるはずもなく、ひたすら口の中のものを飴玉をしゃぶる子供ねように舌を這わせることしかできない。
その度に帽子屋はくすぐったそうに小さく息を吐き、そして「上手だよ」と頭の上で囁くのだ。その分、人の中を撫で回しながら。
「普段君が物を口にするその唇で、雄弁にワンダーランドの平和を語る唇で、僕の排泄器官を舐るんだ。……そのことを知ったら国民たちはどう思うんだろうか。私は興味があるよ」
「ッ、ふ……」
「ふふ、震えてるじゃないか。なにを恐れているんだい? 性に奔放な君はとても魅力的だ。きっと、国民たちも虜になるだろうさ」
閨で語られる方便だとしても微塵も面白くない。
帽子屋を睨んだまま、その亀頭から裏筋まで舌を伸ばす。そのまま浮き出た血管を舌先でなぞれば、帽子屋ははあ、とうっとりと息を吐き出した。
「……っ、君は、本当に素敵なクイーンだ」
ドクドクと脈を打つ帽子屋のものが、舌の上で更に質量を増すのが分かった。息苦しさに悶えながら、前立腺への愛撫を必死に堪えながらも僕は帽子屋を満足させるために必死に舌を動かせた。
射精の兆しを見つけ、その呼吸の乱れ方、反応、どこが弱いのかを確認しながら、射精を促すことに夢中になっていた。
「ッ、ふ、ぅ゛……んん……ッ」
口の中では唾液と帽子屋の先走りと混ざりあい、増したそれを受け止めきれずに唇の端からたらりと溢れる。それを拭うこともせず、好機を逃さぬようにと必死に畳み掛けようと口輪筋に力を入れる。
普段飄々としていて掴みどころのない帽子屋だが、確かに手応えはあった。その分激しくなる体内を愛撫する指先にペースを乱されそうになりながら、必死に帽子屋の腰を掴んだまま僕は口淫を継続させた。
そして舌越しに帽子屋の鼓動が大きくなったのを感じ取った次の瞬間、咄嗟に喉の奥を舌を引っ込めて塞ごうとするが間に合わなかった。そのまま喉の奥に放出される精液は粘膜に絡み、耐えきれず僕は帽子屋の性器から口を外した。
「っ、う゛……げほ……ッ!」
そしてそう噎せそうになったとき、残っていた精液が口元を汚す。やめろ、と顔を逸らす暇もなかった。目の前のまだ頭を擡げたままのそれにぎょっとするのも束の間、帽子屋にそのまま身体を抱き寄せられるのだ。剥き出しになった臍の辺りに帽子屋の性器が当たるような形になり、「離れろ」と慌てて帽子屋の胸を押し返そうとするのも無駄だった。
そのまま帽子屋に手首を取られ、精液や体液で濡れたその唇に吸い付かれた。
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