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第11話

俺は、母親に恨まれても仕方ないと思っている。 親不孝者だと罵られてもいい。それが俺の罰だ。 あの家で過ごした中学時代の悪夢に侵され、発作的な性欲に魘される。 俺は、あれ以来定期的に男に犯されないといても立ってもいられなくなる。 それが、俺に課せられたもう一つの罰だろう。 普段俺に過剰に触れなくなった秦野は、その夜だけは俺を抱くのだ。 記憶を塗り替えるみたいに、時間を掛け、丹念に全身を愛撫し、形がなくなってしまうほど犯す。 そうすることで、俺はまた眠れるようになる。 恋人と呼ぶには甘さなどない。 保護者と呼ぶには、爛れている。 俺と秦野の関係を形容するならば、《共犯者》というのが一番しっくりきた。 俺が悪夢に魘されるように、秦野も同様、俺という存在に縛り付けられるのだ。 それは呪縛にも等しい。 「湊」 名前を呼ばれ、つい反応する。 秦野は目はしっかりと正面を向いたまま、ハンドルを操っていた。 なんですか、と答えれば、秦野はやっぱりこちらには目もくれないまま口を開けた。 「お前が十八歳になったら結婚する」 馬鹿みたいに真面目な顔して、そんなことを言い出す秦野に俺はなにも言えなかった。 しかも、しよう、ではなく、する。なのだ。決定事項である。 「……そうですか」 「なんだ、もっと他に反応はないのか?」 「じゃあ、俺が嫌だって言ったらどうするんです?」 「無理矢理にでも婚姻届に判子させてやる」 「……」 本当に、子供みたいな人だ。 今更呆れもしないが、そんなことをさっきから真剣に考えてたと思うとなにも言えない。 (別に、そんなことしなくても、俺は今更逃げるつもりはないのに……) 衣食住を共にしても、まだ安心できないのだとこの男はいう。 もうこれは病気の一種だろう。 俺が、自分のいない間に他の生徒に混ざって授業受けているというだけでも許せないのだという。 俺の転校先に教師としてやり直そうかと言い出した秦野を必死に止めたくらいだ。 なんかムカついたので「なら、俺の返事いらないですよね」とつっけんどんに返してみれば、ようやく秦野はこちらを見た。 「嫌、だめだ、ちゃんと答えろ」 「……先生、ちゃんと前見て運転してください」 「……湊、その呼び方いい加減やめないか。いつも言ってるだろう、俺のことは……」 「彰さん」と、秦野の言葉を遮るように口にすれば、少しだけこちらを見た秦野。 目があって、すぐ前を向く。 やつに「湊」と、応えるように名前を呼ばれ、なんだか酷くもぞ痒くなる。 秦野は、下の名前を呼ぶとすぐに興奮するから嫌なのだ。 そして、それ同様に『新婚みたいだ』と思ってしまう自分が嫌で、俺はずっと秦野が教師辞めたあとも先生と呼んでいた。 そうすることで一線を引いていたつもりだったが、あまり効果はなかった。 「俺を逃さないって言ったのは、彰さんですよ。……結婚くらいで満足しないで下さい」 すると、あろうことか秦野は道端に車を寄せ、急ブレーキを掛けた。 驚いて、つい先生、と声をあげたときだった、乗り上げた秦野に唇を塞がれる。 こうして、セックスもしていないのにキスをされるのは久しぶりだな。 思いながら、俺は目を閉じた。

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