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誓いの薬指。

「え」  中にあった指輪の、あまりにも武骨なデザインに、開いたままの口が塞がらない。太めのプラチナに刻まれた文様は、まるで紳士用のアクセサリーに見えた。 結婚指輪というのは、華奢な女性の指に合わせられた華奢なデザインではないのだろうか。ふと、思い出して雅樹の薬指を見れば、対称になったデザインのそれがはめられていた。 (もしかして相手は男?)  そうなるとさきほどの『いい奥さん』という言葉がおかしくなってくる。もしかして、体つきのたくましい女性だったり?困惑する自分の手から、指輪ケースを取り上げ、雅樹は指輪を外した。 「手、貸せよ」 「は?何言って……」  その証を最初にはめるのは、絶対に自分ではない。 「サイズ、自信ないんだよ」 「ちょっと、バカ…やめろって」  半ば強引に左手を引き寄せられ、指輪をはめられる。誓いの薬指に、その指輪は吸い寄せられるかのように収まった。 (なんでこんなことに)  じわりと目頭が熱くなる。なんでこんなことをさせられているのだ。なぜ、自分が好きな男の、自分以外の結婚を祝って、その証の指輪までつけさせられているのだ。  しかもサイズまで自分と同じだなんて、一体どんな相手なのだ。 「泣くことないだろ」 「…うるさい」 「見合いしてさ、ああ、こういうのちゃんとしておくのもいいなって思ったんだ」  脱力する自分の手のひらをとって、雅樹はまじまじと見つめながら言った。そうだとしても、自分には関係のない話だ。

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