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第3話

 濡れた髪を適当にタオルドライし、リビングへいくと、オーソドックスな和食の朝食がテーブルに並んでいた。日下は朝はパン食よりも和食が好きだ。 「衛さん、床に滴を零さないで」  テーブルにつくなり無言で味噌汁に口をつけた日下を、徹が転々と床に落ちた水滴を拭いながら、小姑のような小言を漏らす。 「放っておけばそんなのすぐに乾く」 「そうだけど、せっかくの無垢材が染みになる」 「うるさい。自分の家でくらい自由にさせろ」 「……いつだって衛さんは自由にしているじゃないか」  呆れたように言いながら、徹はグラスをテーブルに置いた。日下が好きな氷出しの緑茶だ。朝食は毎朝徹が作っている。ついでに言えば家の家事もほとんど徹がしている。こちらから頼んだことは一度もないのに、徹は日下と一緒に同居するようになってから、文句も言わずに黙々と家事をこなしている。いまじゃ金を取れるんじゃないかと思うくらい、家事のプロだ。むしろ楽しんでいる素振りさえある。  日下は家事が出来ないわけじゃない。出来るけれど面倒でしないだけだ。日下自身は部屋に洗濯物がたまろうと、洗っていない食器が流しに積み重なろうと全く気にならない。人間そんなことぐらいじゃ死んだりしない。  向かいの席に腰を下ろした徹が、いただきますと手を合わせた。染めてない黒髪が普段より伸びている。前髪が目に入りそうだ。もはや見慣れた朝の光景を眺めながら、日下はこいつも変わっていると、これまで何度も思ったことを心の中で呟く。 「何か言った?」  日下の視線に気づいた徹が顔を上げた。意思の強そうな眉と、聡明さが滲むまっすぐな瞳が、徹の内面を写し取る鏡のようだ。 「お前、裕介さんに似てきたな」

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