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第5話
「僕は子どもじゃない。自分の面倒くらい自分で見られる。そんなことよりも、前から言っていることだが、いい加減この家を出たらどうだ。通学のために片道一時間以上もかけるなんてばからしいだろう」
徹は日本でもトップの名門大学に通っている。しかもその法学部とくれば学業の厳しさは明白で、いくら時間があっても充分すぎるということはない。日下にしてみれば、通学によけいな時間をかけるなど、ひどく無駄なことだ。
「もし初めての一人暮らしが不安なら、僕が一緒に物件を探してもいい……」
「――大丈夫だよ」
徹は日下を見つめると、にっこり微笑んだ。その目が笑っていないことに気がつき、日下はようやく徹が何かに怒っているらしいことを悟る。
「衛さんが子どもじゃないことぐらいわかっている。家事は俺が好きでやっていることだ。通学時間も、一秒だって無駄にはしていないから問題ない。それよりも……」
テーブル越しに伸びた徹の手が日下の襟元に触れる。その感触に、思わずどきりとした。
「数日前からついているこの痣、わざわざ人の目に触れる場所につけるってどんな相手なんだ。衛さんが本気で好きなら構わない。だけどそうじゃないなら、もっと相手を選んだほうがいい」
普段は穏やかで冷静な瞳が冷ややかな怒りを帯びている。日下が本気なら構わないというのは、建前ではなく徹の本心だろう。徹は何よりも日下が自分を粗末に扱うことを嫌がる。しかし、日下からしてみたら余計なお世話だ。徹に言われることではない。
「お前には関係のないことだ」
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