7 / 73

第7話

 日下が勤める 花園画廊(はなぞのがろう)は、日本画の大家と呼ばれる作家から若手まで、国内外を問わず幅広い作品を取り扱っている。基準があるとすれば、その才能が本物であるかどうかという点のみだ。中でも、現在最も注目を集める作家のひとり、日高源は別格だ。彼の作品を待ち望む人は多く、中には幾ら出しても構わないという蒐集家までいる。花園画廊はいまや世界中にコレクターがいる日高の作品を唯一扱うギャラリーだ。  午前中、海外からの電話取材を終えた日下は、ふうっと息を吐いた。 「おつかれさま。日高先生、アメリカでの賞を穫ったことで、最近また注目を集めているみたいだね」 「ええ。おかげさまでメディアにも取り上げていただき、ありがたいことです」  日下が日高の担当になって十年程が経つ。作家の多くは一般常識でははかれないことが多いが、その中でも日高の人嫌い、メディア嫌いは有名だ。そのため、日高の窓口でもある花園画廊の担当者の自分がいまのように取材を受けることがあった。 「日高先生のメディア嫌いは特に有名だものねえ。――あ、ありがとう」  自分のコーヒーを入れるついでに先輩社員である(かけい)の分も一緒に入れると、筧はうれしそうな顔になった。 「そういえば徹くんだっけ、彼は元気?」 「ええ。大学の授業だ、ゼミだと忙しくしていますよ」 「確か日下くんのお姉さんのお子さんだったよね。突然高校生の甥を預かると聞いたときは驚いたけど、彼ももう大学生かあ。早いなあ。聡明そうな子だったよね、きみのことがとても好きで」  ――衛さんが好きだ。

ともだちにシェアしよう!