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第8話
ふいに、徹に告白されたときの記憶が甦り、日下はわずかに動揺した。が、すぐに気持ちを立て直し、にこりと微笑む。おそらく筧は、ただ懐いているとかそういう意味で口にしたにすぎない。まだ子どもですからという日下の返答に、筧は納得したようすだった。
「このあと日高先生のお宅にいくの?」
「ええ。いくつか確認したいことがあるので伺います」
「そしたら、そのとき日高先生にスイカを持っていってくれるかな。小玉スイカなんだけど、奥さんの実家から送られてきたんだ。前に日高先生、スイカが好きだとおっしゃっていただろう。ちょっと荷物になっちゃうけど」
「車なので構いませんよ」
「日下くんの分もあるから、帰りに持って帰ってね」
「ありがとうございます」
日下はコーヒーを飲み干すと、荷物をまとめ、席を立った。
「ちょっと出てきます」
ずっしりとした小玉スイカが入った袋を手に、花園画廊のバンに乗り込む。窓を開けて車中にたまった熱気を逃がすと、取り出したハンカチで額の汗を拭った。
衛さんのことが好きだと徹に告白されたのは、同居をはじめてすぐのことだ。もちろん日下はきっぱりと撥ねつけたが、徹がそのことについてどのように考えているかはわからない。日下と強引にどうこうなる気はないようだが、同時に好意を隠そうという気もないようだ。そのくせ、日下の男関係について一度も嫉妬めいた感情を見せられたこともない。
おそらくは若者に特有の一過性のものか、ただの憧れを勘違いしているのだろう。徹が自分に本気で惚れることなどあり得ない。そんなことあっていいはずがない。
「まったくあいつが何を考えているのかわからない……」
誰にも聞かれてないのをいいことに日下はひとりごつと、ハンドルに手をかけ、バンを出した。
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