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第11話

 徹の言葉を聞いた瞬間、日下ははっと胸を突かれるような思いがした。この子どもは父親を亡くしたばかりなのに、他人である自分のことを心配しているのか。ふいに、抑えきれないほどの感情が日下の胸を揺さぶった。  日下は徹を抱き上げると、初めてまっすぐにこの小さな子どもを見た。 「……ああ、悲しい。僕も裕介さんに会いたいよ。大丈夫だ、徹が泣いたことは誰にも言わない。これは僕と徹のふたりだけの秘密だ」  徹は首を傾げると、何かを考えるような表情を浮かべた。 「ひみつは、だれかにはなしをしたらひみつじゃなくなるんだよ?」 「ははっ、そのとおりだな。徹はかしこいな。でも大丈夫だ。徹の秘密は何があっても誰にも言わない」  大きな瞳がまっすぐに日下を見つめ返す。その視線の前では、嘘や誤魔化しは利かない気がした。 「そうだ、そしたら僕も徹にひとつ秘密を教えようか。いいか、誰にも秘密だよ」  手を当て、徹の耳元で囁く。 「――だよ……」  大きな瞳が潤んだように膜を張る。徹は日下にしがみつくと、こらえ切れなくなったように泣き出した。 「……大丈夫だ。泣いていいよ」  自分にしがみつく小さな身体を抱きしめる。震える身体から温もりが伝わってきた。その熱はこれまで凍り付いていた日下の心の一部を、確かに溶かした気がした。

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