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第33話
おそるおそる口をつけてから、日下はそっとカップをテーブルの隅に移動させた。
向かいの席に腰を下ろした徹が、いただきます、と手を合わせ朝食を食べ始める。伸びてやぼったかった髪は短くなり、すっきりとした印象になっている。
こいつ、いい男に育ったよな。
前にも思ったように、元々のつくりは悪くない。これまで日下が会ったどんな極上の男と比較しても、決して見劣りはしない。それどころか、徹には徹にしかない魅力があると思う。それなのに何をとち狂ってか、自分なんかのことが好きだという。こんな外側ばかりを取り繕った、中身のない張りぼてのような自分を。
箸を持つ手にじっと目が吸い寄せられる。その指に触れられたら、どんな気持ちがするのだろう。
いつの間にかじっと見つめていた日下に気づいた徹が顔を上げる。その瞬間、不埒な想像をしていたことを見透かされた気がして、日下は気まずさに視線をそらした。こめかみのあたりに鈍い痛みが走り、思わず顔をしかめる。寝不足のせいか、さっきから頭が重い。
「衛さん?」
徹が眉を顰めた。あの、心の奥まで見透かされそうな瞳で日下をじっと見る。じわりと頬に熱が上がった。やめろ、見るな。
「具合が悪い? なんか本当に顔色が……」
伸ばされた手をとっさに払ってしまい、日下は驚いた。徹も自分と同じような顔をしている。
「わ、悪い、ちょっとびっくりして。大丈夫、ただの寝不足だ」
徹は一瞬だけ日下の言葉を疑うような顔をしたが、これ以上触れてほしくないという日下の気持ちを読んだようだった。
「そう……。仕事が大変なのはわかるけど、自分の身体も大事にして」
「あ、ああ……」
「ごちそうさまでした」
徹が手を合わせ、食べていた食器を流しに運ぶ。離れていった気配に、さみしさを感じた。自分の中にわき上がった感情に戸惑うように、日下はうつむく。
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