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第34話

 そう、問題とはつまりはそういうことだ。これまでどうしていたのか不思議に思うくらい、日下は徹の前で自分を取り繕えない。まるで思春期の子どものようなおかしな態度を取ってしまう。さっき徹が日下のために入れてくれたハーブティーに手を伸ばし、一口飲んでから顔をしかめる。 「……きょうはそんなに遅くならないから大丈夫だ」  言い訳をするようにぼそっと呟いた自分の声が、徹の耳に届いていたかはわからない。ティーカップの中では、白い花びらがゆらゆらと揺れている。  社内会議を終えると、日下は残業もせずに普段よりも早く帰宅した。朝、徹に言ったからではないが、たまには家でのんびりしようという気持ちになっていた。  日中にたまっていた熱気を逃がすように窓を開け、クーラーをつける。その間に湯船に湯を張り、グラスに白ワインを注いだ。  夜の帳がゆっくりと下りていく。どこからか、カエルの鳴き声が聞こえた。昼間の汗を洗い流し、さっぱりしたところで徹が帰宅した。 「衛さん、どうしたの。きょうは早いね」  リビングのソファでワインを飲みながらテレビを見ていた日下に、リュックを背負ったまま、徹が驚いたように言う。 「夕飯にピザを頼んだ。もうすぐ届く。その前に風呂でも入ってきたらどうだ」 「ピザ? 衛さんが風呂を沸かしてくれたの?」 「たまには僕だって風呂ぐらい沸かす」  実際に日下が家事をすることなどほとんどないのに、そんなに驚かれると面白くない気持ちになる。 「そしたらお言葉に甘えようかな」

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