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第35話

 いったん荷物を部屋に置きにいった徹が、バスルームを使う音が聞こえてくる。日下はリモコンに手を伸ばすと、テレビのチャンネルを変えた。特に興味を引かれるものはやっていなくて、動画配信サービスの中から適当に映画を選び、再生ボタンを押す。  そうこうしている間に、デリバリーのピザが届いた。バイトの青年に代金を支払い、再びソファに横になったところで、力尽きたようにすべてが面倒になった。ピザを食べながら、再び映画を見る。普段徹が好むような難解なものではない、話題のスパイものだ。 「あ、映画を見てる」  風呂から出た徹が自然な仕草で、日下の隣に腰を下ろした。飲むか、と訊ねると、徹はグラスを受け取り、肩にかけたタオルで濡れた髪を拭いた。 「お前がいつも見ているようなやつじゃないぞ。今夜は頭を使わないような単純な映画が見たいんだ」 「別にいいよ。でもこれって頭を使わないっていうよりかは、凝った演出で色々な考察がされている映画だと思うよ」 「そうなのか?」  隣でピザに手を伸ばす徹のために、映画を始めまで戻す。再生ボタンを押すと、映画は再びオープニングから流れた。 「前にこの監督の作品を見たことがあるけど、演出が独特っていうか、一部のファンにはすごく人気があるんだよ」 「へえー。あ、タバスコってあったけ」

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