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第36話
もともとそれほど映画が見たかったわけではないので、日下の反応は鈍い。次第に映画の内容に入り込む徹とは逆に、話を追う日下の意識は散漫になってゆく。
「取ってくるよ」
一時ボタンを押して徹が立ち上がり、キッチンからタバスコとガラスの保存容器などを持ってきた。容器の中にはキャロットラペやポテトサラダなどの総菜が入っている。
「きのうの残り物だけど」
皿を受け取り、日下は真っ先にポテトサラダに箸が伸びる。ほのかに塩味が効いていてうまい。
「衛さん、夕べもそればかり食べていたね。前に外で食べた料理を真似して作ってみたんだけど、結構おいしくできたね。実は隠し味にアンチョビが入っているんだ」
「ふうん」
完成した料理はともかく、レシピには全く興味がない日下はさらりと聞き流す。上に乗ったピンクペッパーとローズマリーが洒落ていて、実際に店で出されていてもおかしくない出来映えだ。
ピザを食べ、ワインを飲みながら、徹と取るに足りない話をするのが楽しかった。ワインのボトルが空いたので、新しいボトルをもう一本開けた。最近はまっているイタリア産のオーガニックワインだ。アルコールが入っていることもあり、ここ数日のおかしな緊張が嘘のように、日下はリラックスし、油断しきっていた。いつもより酒を飲むペースが早いことにも気づかなかった。
「衛さん、少し飲み過ぎじゃない?」
と心配した徹に、
「そんなことないからお前も飲め」
とワインを注いだのまでは覚えている。
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