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第38話

 徹の手が大切なものに触れるみたいに、そっと日下の頬に触れた。まるで一時も目が離せないように、ぼうっとのぼせたような瞳をしている。日下は猫が甘えるような仕草で頬を擦りつけると、徹の手のひらにくちづけ、甘噛みした。 「衛さん……」  徹が切なげに目を細める。  舌を絡めるようにキスをする。口蓋をくすぐられ、甘い声が出た。そのときだ。 「あっ」 「衛さん……っ」  体勢を崩し、ソファから落ち掛けた日下を、とっさに徹が支える。その必死な顔に、日下の胸に愛しさにも似た感情が沸いた。 「お前かわいいのな。――んっ、あん……っ」  徹の手が日下の髪に触れ、かき乱すように口づけた。うなじに触れた唇の感触が、火傷するように熱い。 「あ……っ、衛さん……っ」  あとでこのときの自分を思い出したら、自分で自分を殺してやりたいほど後悔したに違いない。しかし多くの酔っぱらいの例に漏れず、日下は通常の判断力を失っていた。そんな状態でまともな思考などできるはずがない。  徹の胸に倒れ込み、くすくす笑った。なんだかものすごく楽しい。徹とするキスはとろけるほどに甘くて、いつまでもしていたくなる。 「気持ちいー……」 「え、衛さん……?」  徹の胸に頭を預けたまま、日下はうっとりと目を閉じた。自分を受け止めてくれるこの腕は、たとえ何があっても大丈夫だという絶対的な安心感を日下に与えてくれた。

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