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第40話

「――それでは失礼いたします」  クライアントからの電話を切った後、日下はグーにした指でこめかみを揉んだ。ここ最近ちゃんとした睡眠が取れておらず、鈍い頭痛が続いている。  酔っぱらって徹にキスした翌朝、日下は逃げるように家を出た。徹を避けたことでますます自己嫌悪に陥り、深い後悔と後ろめたさに襲われた。帰ったら徹ときちんと話をしようと決意を滲ませた日下を迎えたのは、拍子抜けするほどいつも通りの徹の姿だった。それから表面上は何事もなかったかのように過ぎている。 「大丈夫ですか。顔色、あまりよくありませんよ。この後緒方先生との打ち合わせでしたよね。代わりに私がいきましょうか?」  痛みをごまかすようにコーヒーカップに手を伸ばした日下に、筧が気遣う素振りを見せた。 「お気遣いいただきすみません。ありがとうございます。でも大丈夫です」  仕事のことで筧に心配をかけてしまったのを申し訳なく思いながら、日下はいくつかの雑用をすませて席を立つ。  緒方との打ち合わせ場所は、オープンテラスのある落ち着いたカフェだった。案内にきた店員に待ち合わせであることを伝えると、テラス席でワイヤレスイヤホン付けながらノートにスケッチしている緒方の姿を認めた。 「あちらにいました。ありがとうございます」  日下は店員に微笑むと、緒方の席へと近づく。緒方は自宅に作業場も持っているが、ラフなどは外ですることが多いと以前言っていた。気分が変わっていいそうだ。 「緒方先生、お待たせしました。もう少し後にしましょうか?」

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