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第43話
突然の日下の激昂に、緒方が驚いたような表情を浮かべる。
「私が徹のことをどんな目で見ているって言うんですか。徹のことが好き? あなたは何か勘違いをしている」
先日、自分が徹にしたことが甦り、違う、あれはそんなんじゃないと、日下は頭の中で強く否定する。
そんなんじゃない? だったら何だと言うのだ。反省すればすべてが許されると思うのか。何もなかったことにできると? ――違う、自分が徹にした行為は消したくても消せない。たとえ徹がそんな日下の身勝手さを許してくれたとしても。
いったい緒方は何の話をしているのだろう。僕が徹のことを好き……? 何をくだらないことを。
「よけいなことを言ってすまなかった。とりあえず席に座ろう」
言われてみて、初めて日下は自分が立ち上がっていたことに気がついた。周囲の目を気にするように、緒方が席に着かせようとするのを、日下は鼻で笑うように振り払った。その瞳に不快の念を乗せ、これ以上あなたと話を続ける気はないのだと告げる。
「衛……」
ひそひそと話し声が聞こえた。近くの席のカップルが日下たちのほうを見て何か話をしている。見たいのなら勝手に見ればいい。何をどう思われたって構わない。視線を合わせ、婉然と微笑む日下に、カップルの男のほうがわずかに赤くなった。視線を正面に戻し、緒方を見る。緒方が困ったような表情を浮かべている。
「私にはあなたが何を言っているのか理解できません。正直これ以上この件で話をするのも不愉快です。第一、私とあなたは始めからそんな関係ではないはずだ」
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