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第55話

 ふっと足下から力が抜ける。その場に崩れ落ちそうな日下の身体を、背後から支える腕があった。 「しっかりしろ。お前がそんなんでどうする」 「……すみません、もう大丈夫です」  日下は日高の腕に手を当てると、彼から離れた。くらりと目眩がした。全身びっしょりと冷や汗をかき、吐きそうだ。それでもなんとか平静を装い、心配そうな表情を浮かべる門倉たちに向き合う。 「それで甥ごさんは無事なのですか?」 「本人からは大丈夫だとメッセージが入っていたのですが、折り返しても留守電になっていて繋がらなくて……」  平静を装い話をしていても、徹は無事なのだろうか、怪我はひどいのだろうかという不安でいっぱいになってしまう。門倉は安堵と不安が入り混じった複雑な表情を浮かべた。 「そうですか、それは心配ですね……」 「俺、病院までこいつを送っていくから」  日高の思いつきの言葉に、日下はこの場の状況も忘れてぎょっとなった。日高は企画展の目玉のひとりだ。自分が理由で席を外させるわけにはいかない。  「ああ、そのほうがいいですね」  日下は無理矢理気持ちを奮い立たせると、いえ、と門倉たちの会話に口を挟んだ。 「私事でお騒がせしました。申し訳ないのですが、この場で失礼させていただいてもよろしいでしょうか」 「それはもちろんですが……」

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