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第58話

 徹に離れてほしかった。口ではいくら好き勝手なことを言ったって、自分からは本気であいつを突き放すことなんかできなかった。自分を好きでいてくれるうちに、あいつのほうから離れてほしかった。徹が変わっていくところなんか見たくない。自分は何て勝手だったのだろう……。  日下はきつく瞼を閉じると、膝の上で両手を握りしめた。どうか無事でいてほしいと、祈るような気持ちで願う。  病院のエントランスにタクシーが止まると、日下は運転手に金を払い、ドアから飛び出した。そのまま窓口に詰め寄る。 「すみません、佐野徹は……っ、甥が事故に遭ってこちらに運ばれたと連絡をいただいたのですが……っ」 「佐野徹さんですね。お調べいたします。少々お待ちください」  事務員がパソコンを検索するわずかな時間さえももどかしかった。 「お待たせいたしました。佐野さんは現在病室にいらっしゃいますね」 「あの、彼は無事なんですか? 怪我の具合はひどいんですか? 入院が必要だと聞いたのですが……?」  矢継ぎ早に質問を浴びせる日下に、事務員が困惑した表情を浮かべる。 「あの、私からは詳しいことは言えないので……」 「だったら、早くわかる人を呼んでください」  彼女を責めても仕方がない、それが仕事なのだと理解していても、感情がついていかない。ぐずぐずしていないで早く徹の容態を教えろと、関係のない事務員を怒鳴りつけたくなる。事務員がさっと顔色を変えたのを目にして、日下はいけない、と自分を叱咤した。 「……失礼しました。すみませんが、佐野徹の病室を教えていただけますか?」 「佐野さんは東棟の204号室にいます。東棟へは、あちらの通路をまっすぐにいってください」 「ありがとうございます」

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