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第61話
翌日、日下は半休をもらって病院まで徹を迎えにいった。事故のとき、加害者は徹が急に道に飛び出してきたと言っていたらしい。その後目撃者が現れたことにより、証言自体が虚偽であることがわかった。徹の怪我が大したことがなかったからいいものの、被害者側に責任を被せようとした行為自体悪質だった。徹の性格なら加害者側にも同情を寄せるのではないかと日下は内心で心配したが、彼がはっきりと争う構えを見せたことが正直意外だった。
「たった一日離れていただけなのに、なんだか懐かしく感じる」
玄関の鍵を開ける日下の隣で、徹が懐かしそうに周囲を見渡す。
「あとでトロントにも連絡しろ。事情は先に僕のほうから話しておいたが、徹のほうからもちゃんと話したほうがいい」
「わかった」
衛さん、という声に振り向くと、身を屈めた徹が日下にキスをした。驚いてその場に固まる日下を残して、徹が家の中に入る。な、何だ?
動揺を抱えつつも、わずかに赤くなった頬を素早く隠して、日下も慌てて後に続くと、徹が廊下に荷物を下ろしていた。徹が帰ってくるからと、家を出るときにエアコンはつけたままにしておいた。いろいろあった後だし、ゆっくり休みたいだろう。
「お前の部屋も掃除をしておいた。慣れないベッドで、夕べはよく眠れなかったんじゃないか? もし横になりたいなら少し休んでから……」
「衛さん」
徹のまわりで甲斐甲斐しく世話をやこうとする日下の手を徹はつかむと、リビングのソファに導いた。
「その前に話がしたい。いい?」
「……ああ、もちろんだ」
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