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第64話

「自分よりも大人で、ずっと手が届かない人だと思っていた。だけどいまはたくさんのことを知っている。人前では完璧な衛さんが、実際は全然そんなことはなくて、本当は不器用で怖がりなことも。昔、父の葬式で会った衛さんに俺はずっと憧れていたけれど、一緒に暮らすようになって、そんな衛さんがますます好きになった。――俺は衛さんのことが好きだ。いいところも悪いところも、全てを含めた衛さんのことが、俺には愛おしく思う」  なんだよ、そんなのちっとも褒めてなんかいない、悪口ばかりじゃないかという憎まれ口は、胸が詰まって言葉にならなかった。それは徹の心を丸ごと差し出されたような、純粋な愛の告白だった。こんなに心のこもった告白を、日下は聞いたことがない。  日下の頬を静かな涙が濡らす。徹の手が日下の頬に触れ、その唇が触れるのを、日下は目を閉じて受け止めた。胸の中をこれまで感じたことのない温かな感情が満たし、静かにあふれた。 「……僕も徹が好きだ」  そっと互いのほうへ顔を近づけるように、口づけを交わす。徹の手が愛おしむように、日下の髪に触れ、瞼にキスを落とした。――くすぐったい。胸の中が恥ずかしくてじっとしていられないほど、幸福な何かであふれている。 「……お前が事故に遭ったと聞いて怖かった。こんな思い、二度とさせるな。わかったか」 「衛さん……」  普段なら絶対に口にしないであろう日下の告白に、徹が驚いたようにわずかに目を開く。その瞳に強い光が浮かんだ。 「約束する。もう二度と衛さんを悲しませるようなことはしない」  何度してもし足りないほど、キスを交わした。もう隠さなくていい。強がらなくていい。徹に好きだと伝えていい。手のひらに感じる温もりを、愛おしいと思う。 「きて」

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