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第67話
「なんだかきょうの衛さんかわいい」
愛しいものでも見るような眼差しで見つめられ、息が止まりそうになる。きっとこれまでの日下だったら、自分の姿が相手にどう見えるかなんて気にも止めなかっただろう。セックスは日下にとって何の意味も持たず、自分を強くする武器であり、快楽を求めるための道具でしかなかった。だけどいまは違う。自分を見つめる徹の眼差しが、日下の身も心もとろけさせる。
「お前が好きだ……。その目も、身体も……」
徹の首に腕をまわし、口づける。引き締まった肉体の感触を確かめるようにキスを落とし、甘噛みする。はっと、徹が快感を堪えるような息を漏らした。日下は上体を起こすと、徹の下腹部に手をついた。
「衛さん? ……あっ」
徹の胸部に口づけ、少しずつ頭を下げていく。日下がしていることがわかったのか、徹の下腹部がぴくりと緊張した。
「あ、あの、衛さん、待ってっ。俺きのう風呂に入っていなくて……っ」
「黙って」
焦ったようすで身体を起こそうとした徹を止め、行為を続ける。徹のその部分が、着衣の上からでもきつそうに膨らんでいるのがわかった。ファスナーを下ろすと、完全に勃起した徹の性器が勢いよく飛び出した。ムスクのような匂いがした。舐めると微かに塩の味がした。徹が生きている証だ。
このときまで、日下はわずかだが恐れを抱いていた。徹の自分を好きだという気持ちが本気だとしても、そこに身体が伴うとは限らない。自分を見つめる徹の瞳に、嫌悪が滲んだらどうしようという不安だ。
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