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第5話

 羽月はフェロモンの放出量を意識的に増やした。ビッチのたしなみとして、自在にコントロールできるようになったのだ。  男たちはマタタビの匂いを嗅いだ猫のように、たちまちふにゃふにゃになった。ついで股間が、粗チン、並太、デカマラの順番でもっこりする。  見よ、これがビッチの実力だ。ひと山いくらが混じっているとはいえ、博愛の精神でまとめて持ち帰って、4Pとしゃれ込むのもだ。だが週明けが提出期限のレポートを片づける必要上、体力を温存しておきたい。  ここは穏便にお引き取りねがうのが正解だ、と頭では思うのだが本能は別だ。食っちゃお、食っちゃおと、サンバのリズムに乗せてけしかけてくる。  フェロモンという武器に舌なめずりが加わるとイチコロで、うっ、と呻いて三人組がいっせいに前かがみになる。羽月は、ほくそ笑んだ。お手、伏せ、ラブホで待機と、たたみかけようとしたところに邪魔が入った。 「はしゃぐのはけっこうだが、節度をわきまえていただきたい」  涼太郎がリーダー格の男の手を摑んで目配せをよこす。羽月がからまれているとみて加勢に来てくれたわけだが、ありがた迷惑という面がなきにしもあらずで……。  ともあれ素振りは剣道の基本であるとともに手首の鍛錬につながるとあって相当、握力が強い様子だ。現に男がしゃにむに腕を揺すっても、涼太郎の手は剝がれるどころかびくともしない。  結局、三人組はほうほうの体で退散した。腹いせに傘立てを蹴倒していった後ろ姿には、グレートデンに吠えかかって逆に一喝されたチワワのような哀愁が漂っていた。 「ウィナー、うちの新人くん!」  羽月は涼太郎の手首を摑み取り、ボクシングの審判めかして上げた。おどけて雰囲気をなごませつつも、心の中では涙ぐんでいた。  さよなら、ペニストリオ。平等に可愛がってあげるつもりで、さざ波が立ちはじめていた(なか)をなだめてくれるものを早急に調達しなくちゃ、だ。  適役がいる、涼太郎だ。  と、いうわけで場面はバイトを終えたロッカールームに変わる。涼太郎に遅れること数分、羽月がロッカールームに入っていくと、彼はスマートフォンを片手に電話中だった。

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