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第8話

 筋金入りのノンケですら攻略してのけた、という実績があるキメ顔だ。白石涼太郎よ、遠慮はいらない。きみのムスコがヤンチャになりしだい、おれはパンツを脱ぐ……!  突風が吹き、空き缶が足下に転がってきたこと以外、何も起こらない。羽月は、がっくりとサドルに頬杖をついた。蠱惑的な眼差しは維持しつつ、お友だちモードにシフトした。 「白石くんは何を専攻してるんだっけ」 「理工学部のロボティクス学科で学んでいる。労働人口の減少に歯止めがかからない現代社会にあって、中でも介護の分野でますます重要が高まるロボットの開発に取り組みたいと思っている」  百点満点の優等生発言もビッチ翻訳機にかかると、こうだ。  ──ビッチ欲が高まるとともに、特に内奥においてペニスの需要が増す……。    そう、ケチケチしないでペニスを供給しやがれ、といった心境だ。指をからめてしまえばこちらのもので、ペニスをしごくさまを連想させる蠢かしようで指の腹を撫でてあげると男は全員、鼻息を荒くする。  ゆえにハンドルを握る手に手をかぶせていき、ところが、ぴたりと重なるまぎわにハンドルを離れてポケットの中に移動した。 「最高学府で得た知識は社会に還元するのが理想だと考える」  羽月はワンテンポ遅れて相槌を打った。理想とは、太くて硬くて長くて、ずば抜けた持続力と回復力を誇るペニスで抜かずの三発を決めてもらうことだ。涼太郎がその資質に恵まれているか実戦で確かめるべく、是が非でもエロい方向に持っていきたいのだが、こんなに攻めあぐむとは想定外だ。  そうこうするうちに信号が青になり、涼太郎がサドルに跨った。 「ここで失礼する、お疲れさま」 「あっ、おやすみぃ」  敗北感と虚しさをない交ぜに、ぐんぐん遠ざかっていく後ろ姿を見送る。ビッチ歴八年、無敗を誇ってきた戦績に、初めて黒星がついた瞬間だった。超強力なフェロモンが効かないとは特異体質に違いない。  週明けに事の顛末を友人に話して聞かせると(正しくは愚痴った)、彼──須田直希(すだなおき)は椅子から転げ落ちるほど大笑いした。 「ケツの穴が閉じる暇がない四ノ宮の誘惑に打ち克つとかって、すげぇ。そいつ、勇者な」  ヤリチン大王の異名をとる須田は、羽月とは別の意味でチ〇ポが乾く暇がない。クズい男だが、曜日ごとに計七人の彼女がいて、今日の今日、道ばたで刺されても本望とうそぶく。  性の求道者(ぐどうしゃ)という観点に立つと同類で、しかし棲み分けができているおかげで友情が成り立つ。

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