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第16話

 楽しい、楽しいシミュレーションタイムです。最初は挨拶かたがた、ジーンズを乱しながらひとしごきしてあげましょう。あるいは、しょっぱなからパクリと銜えて度肝を抜いてあげるのも、童貞くんならではの動揺ぶりを鑑賞することができて、興趣に富んでいると言えるでしょう。  ボクサーブリーフ派か、トランクス派かによって柔軟な姿勢で臨むのは当然のこと。  前者であれば布越しに舌を這わせて、ペニスの輪郭がくっきりと浮き出てくる過程を楽しむ。後者の場合は股ぐりから指を差し入れて、を撫でころがすのも一興だ。どちらにしても、ねだりがましげに腰がもぞつくさまを楽しめる。  我こそは細きも太きも長きも短きも、ありとあらゆるペニスを夢の世界へといざなう性の伝道師、いや、ビッチ。  ただし、さんざん焦らしてくれたお礼を兼ねて、そう簡単にはイカせてあげない。めでたく初物をごちそうになったあかつきには二十四時間マラソンの勢いで、ペニスがふやけきってしまってもなお内壁で揉みしだいてあげるから、お覚悟召されよ。  ん? ん? あれぇ?  即座にぶちゅっといく場面にもかかわらず、待てど暮らせど一向にくちづけてくる気配がない。羽月は薄目をあけ、こっそり様子を窺って愕然とした。  媚態とフェロモンの合わせ技も、涼太郎にとっては電車で隣の席に座った乗客が寝オチして寄りかかってきた程度のことにすぎないようだ。現に泰然と氷を嚙みくだく。  プライドが粉砕されるようだ。しなだれかかれば九割のペニスが瞬時にいきり立ち、残りの一割も数十秒以内に頭をもたげるのが普通だ。  フェロモンがぜんぜん効かないとは、涼太郎は、本当はアンドロイドじゃないのか。だが弱気は禁物、セオリーが通用しない相手を攻略するのは、ビッチの奥義を究めるうえでのひとつの試練と位置づけるのだ。  折れた心にギプスをはめて仕切り直す。 「帰るの、かったるいなあ」  欠伸をするなり、タヌキ寝入りをはじめた。確かに涼太郎に馬乗りになり、お宝をご開帳、と力ずくでジーンズを脱がせるほうが手っ取り早い。襲うより襲わせる。それが羽月の美学だが、今夜のところは実利優先でいくべし。  さしあたっての目標は、 「ごめん、手がすべった」  といったぐあいに、股間の膨らみを(たなごころ)に収めること。それには寝ぼけたふうを装うのがベストだ。  その前哨戦に、重力に逆らいきれなかったという体で膝枕に崩れ落ちていくと、問答無用でベッドに放り込まれた。

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