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チ〇ポの7

    チ〇ポの7 ビッチの誤算  アンダーウエア二枚にニットを重ね着したうえに、ダウンジャケット。さらにマフラーを巻いても胴震いが止まらない。羽月は改札を抜けながら手袋をはめると、とぼとぼと歩きだした。  季節外れの、ぽかぽか陽気だ。大学の最寄りの駅から、だらだら坂をのぼって登校する学生の群れにあって、着ぶくれした羽月は浮いていた。  涼太郎との間に深い深ぁい溝ができて以来、さしずめ氷河期に入ったような精神状態にあるせいだ。だから、いくら厚着をしても温まらないのだ。  落ち葉が散り敷かれた銀杏並木を、ふらふら、よたよたと歩く。正門をくぐるころには死相が現れているありさまで、そこに膝カックンをかまされると、すってんころりといく。 「きれいに転んだなあ、ウケるわ」 「……須田か、おはよ」  羽月はのろのろと四つん這いに躰を起こし、それもつかの間、腹這いにひしゃげた。 「おい、ふざけてるのかマジに立てないのか、どっちだ」  ダンゴムシを小枝の先で転がしてみるような指づかいで、背中をつんつんしてくる。 「ここで野垂れ死ぬ方向……」  息も絶え絶えにそう答えて、縮こまる。すると手荒に起こされたばかりか、マフラーを引き綱代わりに、須田が所属するいわゆる飲みサーの部室につれていかれた。  ほんの数分の道のりが、サハラ砂漠を横断するように過酷なものに感じられた。羽月は椅子に崩れ落ちると、足を投げ出し、仰のいた。 「ゾンビ並みにすすけた顔をして、自称・最強のビッチがみっともねぇ。まあ、飲め」  沼色の液体をそそいだカップが口許にあてがわれた。反射的にひと口すすり、とんでもない味にしゃっくりが出た直後、喉を掻きむしりながらのたうち回る羽目になった。 「なっ、何を飲ませた。おれで人体実験か」 「青汁のホットカルピス割りに、ジョロキアの粉末をひとつまみ。友だちのよしみで食料も恵んでやろう。ああ、俺って優しい」  カップ麺と箸を渡されて、しぶしぶ口にする。あっさり系のスープが五臓六腑にしみわたり、ついでに心にもじんわりと沁みた。 「須田、クズいだけじゃなくて意外に気づかいの子だったんだね。ヤリチンなのにモテる謎が解けた感じ」 「意外はよけいだ。ほら、これも食え」  三本でひとパックのみたらし団子も、瞬く間に平らげた。羽月は腹をさすると、ぽろりとこぼれた涙を手の甲でぬぐった。  賄いのガパオライス食べたのを最後に、ここ二日、何も喉を通らなかった。おまけに眠れない。ようやくうとうとしても、ロッカールームでの一件を(もと)にしたフラッシュバックに襲われて、飛び起きることの繰り返し。  蛇足だが、ローマ法王さえ色香に迷いかねないほど、やつれぐあいは凄絶にエロいものがある。

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