55 / 76

第55話

 羽月は、試しに涼太郎のかっこいいところランキングで一位に輝くものを思い浮かべてみた。ならず者の一味を撫で斬りに片づけたさまは、殺陣(たて)の台本通りにすぎなくても素敵だった。  断然、姫抱っこでしょう。いや、剣士のパフォーマンスだ、ふつうに自転車を漕いでも颯爽として絵になる……等々。自分会議が紛糾したあげく、知恵熱がぶり返しそうだ。  この甘みと苦みが入り混じったような、それでいて味わい深くて摩訶不思議な想いが、犬さえ詩人に変えると言い習わされてきた恋なのか。  もしも、あくまでの話だが、(よわい)二十一にして初めて恋に落ちたというのなら、赤飯を炊いてお祝いをすべきだろうか。  恋、と繰り返し呟くにつれて、その甘美な響きに酔っぱらうようだ。  だがビッチと恋は、梅干しとウナギ以上に食い合わせが悪い。南極でフラダンスを踊るくらいミスマッチ感がすごい。  山盛りのペニスを前にして「ど・れ・を・食・べ・よ・う・か・な」と悩む愉しさを捨てるのは惜しい。しかし恋しちゃったと、はしゃぐ権利を得るにはビッチ生活に別れを告げねばなるまい。  たかが恋、されど恋。マフラーを蛇腹に折りたたみながら呻いていると、そこにポンコツな子を憐れむ目が向けられた。あっかんべとやり返して、そっぽを向く。 「ヤリチン野郎が説教かますとかって、何様くさくてウケるんですけど?」  須田が、ゆらりと背後に回り込んできた。不穏な気配が漂った瞬間、力いっぱい背もたれを押し下げられて、爪先が浮いた。  羽月は咄嗟に上体をひねると、ごろりと横に転がる形に長机の上に移った。踵で天板を漕ぎ、背泳ぎでゴールする要領で反対側の(へり)を摑む。  そして起き直った。ところが床に下りようと躰の向きを変えるのに先んじて、引き倒されてしまった。同じく天板に飛び乗った須田が、意表を突く行動に出たのだ。  しかも須田は、ほっそりした肢体に馬乗りになる。両足で胴体を挟みつけておいて、ジーンズの前に手を伸ばす。  頭の中でクエスチョンマークが飛び交う。至高のビッチとヤリチン帝王の間には、不可侵条約みたいなものが結ばれている。  お互い守備範囲の外も大外で、エロい雰囲気が醸し出されたことは一度もない。ゆえに突然の乱心ぶりに戸惑い、抵抗するのが遅れた。ファスナーを下ろす音が耳朶を打ち、それでようやく足をばたつかせると、 「スイッチが入った。やらせろ」  尻の割れ目をつままれた。 「アナルセックスに目覚めたなんて聞いてないけど? っていうか、今さらおれを相手にサカるってありえないだろ」 「どんな穴でも穴は穴。案外イケるかもしれないから試してやる。ケツを出せ」  ニットとひとまとめにアンダーウェアがたくしあげられた。皮膚が粟立ち、羽月は死に物狂いになってもがきはじめた。

ともだちにシェアしよう!