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チ〇ポの8

    チ〇ポの8  細長いものが胸にめり込んで、息苦しい。お泊まりしたペニスの腕が乗っかっているのだろうか。  羽月は夢うつつのうちに〝腕〟をどかそうとして、目をしばたたいた。  両手をまともに動かせないうえに、その両手に鉄棒にぶら下がっているような重みがかかる。こめかみの奥に鈍い痛みがあって、さしずめ宿酔(ふつかよ)いの朝だ。  深酒した憶えはないのに、おかしい。大学の正門の前で須田と別れて、家に帰って告白の練習をして、それから……、 「宅急便じゃなくて、ダースベ〇ダーじゃなくて、強盗……?」  そうだ、泥棒に入られたに違いない。犯人はすでに金目の物を奪って逃げたあとだろうか。クロゼットや抽斗(ひきだし)を漁っている最中だとしたら、大声で助けを呼ぶのはヤバい。目撃者は消すに限る、と殺されてしまうかもしれない。  めぼしいものはバイブレータの一大コレクションくらいで、あとは盗む価値がないガラクタばかりなのに。腹の中でぼやき、音を忍ばせて首をねじ曲げて、妙に納得した。  ロフトの柵に結わえつけたロープを用いて、万歳する形に手首をくくられている。ちなみに細長いものは梯子の横木で、つまり梯子に腹が密着するふうに吊り下げられていた。  さらに下肢は肩幅に割り開かれて、足首が梯子の縦の棒に粘着テープでぐるぐる巻きにされているとあって身動きがとれない。 「目が覚めたか」  発音は不明瞭で、そのぶん禍々しげに鼓膜を震わせる声に心臓が跳ねた。ぜひともトンズラをかましていてほしかった闖入者(ちんにゅうしゃ)は台所にいる、台所には包丁がある、包丁は現地調達の凶器……。  羽月は、冷たい汗に濡れた額を二の腕でぬぐった。包丁でぶすりといきそうになったときは、全力で命乞いをしよう。  足を舐めろ? ハイ、喜んで。ストリップをやってみせろ? では早速お目汚しを。  だが、要求がエスカレートしてレイプされる(おそれ)が強まったさいには必死で抵抗する。涼太郎のペニス以外は穴への侵入を断固として禁ず(自分の指およびオモチャは除く)、と決めたのだから。  いちど深呼吸をした。心霊スポットに潜入するように恐る恐る(こうべ)をめぐらせて、ほんの少し肩の力を抜いた。  男は依然としてダース〇ーダーのマスクで顔を隠している。いわゆるが割れていないということは、急いで口封じをする必要はないということで、当座は流血の惨事は免れそうだ。  ただし希望的観測にすぎない。穏便におひきとり願う方向に持っていくために適切な手段は?   法学部の学生らしく、これこれこういう犯罪には刑法何条が適用されて懲役何年の刑が下る、と理詰めで説得にあたるとか?

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